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アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎

帰国


というわけで先日韓国から帰国しました。
外国に赴くのはこれで二度目。とはいえ一度目のグアムにしても今回の韓国にしても、ほとんど外国の空気は感じられませんでした。グアムは立派な観光地ですのでそこら中に日本語が書かれていますし、現地の人も日本語を喋ります。韓国に至っては文字が違うだけで、見える風景は日本のそれとなんら変わりありません。やっぱり、もっと西欧の方まで飛ぶべきなのかもしれませんね。

しかし些細なところで文化の違いは息づいていて、それは交通マナーであったり(観光客を乗せてるのにバスの運転が荒い上に、トラックと軽くぶつかって運転手どうしが喧嘩になった)、食べ物なんかは特に顕著だったかもしれません。驚いたのは、どこの料理店に行ってもお茶碗とお箸がまったく同じなんです。あれは決まりでもあるんだろうか? 統一させた方が流通させやすいからかな。

中でも一番カルチャーショックを受けたことといえば、国境にまつわることでしょうか。日本には国境という概念はないですからね。
韓国といえば南北朝鮮問題。いまだ戦争中の両国国境付近では常に緊迫した状態が続いています。
今回の旅行はほとんどが自由時間だったのですが、唯一全員行動の予定があって、それが国境38度線上にある板門店を訪ねることでした。
ただ残念ながら、三年に一度だけ米軍の訓練のため板門店に近づけない年があるらしく、運の悪いことに今回がその年だったため、板門店本体に入ることはできませんでした。それでも北朝鮮が奇襲のために地下に作ったトンネル内部を見学できたり、展望台から北朝鮮の様子を眺められたのは貴重な体験になったかなと思います。目に見える範囲に別の国があるって、なんだかすごく不思議な感じでした。

ところで私のゼミには「ちょっとコンビニ行ってくる」ぐらいの軽いノリで外国にぽんぽん飛んでいっちゃう人が何人もいるんですが、現地の女の子を紹介されたときはさすがに焦りました。聞くところによると、半年ほど前にバーで小一時間話しただけの仲なんだとか。それでも相手は気にした様子もなくフレンドリーに接してくれましたし、ノーボーダーってこういうことなのかなと、意味のわからないことをふと考えてしまいました。
その子の案内で韓国を回ったりして、国際交流の楽しさを学べたのはよかったです。
ちなみに紹介してくれたそのゼミ生は、韓国から帰国した翌日にモンゴルに旅立ちました。その行動力には憧憬の念すら抱いてしまいます。

そんな感じで、三泊四日のゼミ旅行は終わりました。
こういう機会でもないと今後訪れていたかどうかはわからないですし、なにごとも経験ですから、そういう意味では行けてよかったのかなと思います。
韓国は大阪からだと二時間もかからず、北海道よりも近い場所にあります。言ってしまえば、週末に飛び立って週明けに帰ってこれるぐらいの気軽な距離にあるということです。物価も安いですし、主要な都市に行けば言葉に不自由することもありません。「外国はちょっと……」と尻込んでいる方も、ものの試しで訪れてみてはどうでしょうか。


<拍手コメ返信>
遅くなりましたが、コメ返させてもらいます。

>Medeskiさん
コメントありがとうございます。
日本男児の意地を刻もうと思ったんですけど、タクシーの運ちゃんはカーレースしだすは、バスの運ちゃんは喧嘩しだすはでなんか韓国怖かったんで萎縮してしまいました。マジ怖い。

>リョータさん
コメントありがとうございます。
記事読んでいただき大変恐縮です!
ご指摘の通り終わクロと境ホラは未読ですね。境ホラは一応全巻所持していて、アニメも始まりますし読もうかと思ってるんですが、終わクロまで読む余裕はちょっとないかもしれません。せっかくおすすめしていただいたので可能なら読みたいのですが……。







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「生きるのを楽しむコツは二つだけ」河崎が軽快に言った。「クラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと」
「滅茶苦茶だ」
「世の中は滅茶苦茶」河崎は心から嘆き悲しむかのようでもあった。「そうだろう?」



――あらすじ――
引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は―たった一冊の広辞苑!?そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ!注目の気鋭が放つ清冽な傑作。第25回吉川英治文学新人賞受賞作。


――感想――
伊坂作品は『砂漠』に続き、これで二作目。
この人の書く物語は本当に面白いです。肌に合うと言うんだろうか。一ページ一ページが、一文字一文字すらも私にとって無駄には思えなくて、読者としても小説家志望の立場としても好きになれる作風なんだな。
彼の作品からもっと色んなことを吸収したい。生活の指針にできるぐらいに。

引っ越してきたアパートで出逢った男性にいきなり書店強盗に誘われ、しかも標的はたった一冊の広辞苑。真意の見えない思惑に主人公さながら物語の顛末が気になり、「なにが始まるんです?」といった具合に初っぱなからページが進む進む。
こういう出だしは大好物です。突拍子もなく、一見無意味に思える行為に主人公が巻き込まれるという構図。謎が人の心をつかむんです。

ただ、書店強盗をもっと引っぱってくれるのかと思っていただけに、中盤に差しかかったあたりで呆気なく流されたのが残念だった。
けれど真の物語はそのあと。河崎が書店強盗を企んだ本当の理由とは? 椎名の知らない二年前の出来事とは? 現在と二年前の物語を交互に描くことで、徐々に全貌をつまびらかにしていく手法は憎いぐらい効果的な演出となっていた。

過去と現在を対比させて時間の流れを感じさせる演出は卑怯だ。今はいない人物の皮を剥いで自分に貼りつけるみたいに、その人の面影を背負って生きていくというのはなんとも切ない。河崎や麗子さんの一言、一挙手一投足に二年前から引きずっているもの、二年前から変わったものが映し出されて、至るところで胸を貫かれた。

この作品の一番のファインプレーは椎名を登場させたことだと思う。役柄の配置がこれでもかというぐらい絶妙。たとえ椎名の一人称で物語が進むとしても、椎名は絶対に主人公にはなれないんだよね。あくまで巻き込まれた部外者。
動物園で河崎と交わされた最後のやり取り、鳥葬のくだりは、本当に喉が詰まるかのようだった。

そして物語の収束する場所。
無意味で無価値だけど、二年前の何気ない一言いまだに覚えていて、こんな形で達成するなんて、どれだけ泣かせてくれるんだ。ブータン人は因果応報を信じている。いい行いも悪い行いも、絶対に来世に返ってくるのだと。だからこそ、その理に反するように、
「神様を閉じ込めに行かないか?」

大仰で、大袈裟で、でもたったそれだけのことを真摯に。
この物語を読み終えた人は、きっとだれもがこう想いを馳せるに違いない。
 ボブ・ディランはまだ鳴っているんだろうか?

と。


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陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)
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ギリシア神話を知っていますか&私のギリシャ神話/阿刀田高

ポメラ




先日『ポメラ』を購入しました。
ツイッター上で作家志望者たちの間で話題に上がっていたのでついほしくなっちゃいまして……。もともとノートパソコンよりお手軽に携帯できるワープロを求めていたし、価格も二万円に満たないということだったので購入を決心しました。
実際に使ってみると、噂通りの性能のよさ。画面も大きくキーボードも幅広なので、慣れればPCに打つのと変わらない感覚で打鍵できるようになります。それになにより、文章を作成するという点において特化された機能が便利便利。PCとの互換性も高いですし、もっと潜在能力を引き出せば値段に見合った活躍が期待できそうです。

これで教習の待ち時間、電車に移動中、大学での講義の合間に気軽に執筆できるようになったのはとても嬉しいです。俄然やる気がわいてきました。






ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫)ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫)
阿刀田 高

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――あらすじ――
聖書と並ぶ古典中の古典、ギリシア神話は、世界の思想、芸術、文芸に多大の影響を及ぼしている。本書では、多彩豊富な物語の膨大な枝葉を巧みに整理し、著名なエピソードを取りあげてわかりやすく解説する。エロス、オイディプス、パンドラ、アンドロメダ……神話中のヒーローとヒロインの運命を、作家的想像力で興味深く語ったこの一冊で、あなたはもう“ギリシア神話通”。


私のギリシャ神話 (集英社文庫)私のギリシャ神話 (集英社文庫)
阿刀田 高

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――あらすじ――
世界の至る所に浸透し、痕跡を残しているギリシャ神話。とくに西洋の文化や芸術を味わうとき、ギリシャ神話を知っていると、10倍は楽しい!数多くの神々や英雄が活躍する広大な神話の世界を、ゼウス、ヘラクレス、アプロディテ(ヴィーナス)など、馴染み深い神々のエピソードを中心に、巧みに水先案内。満載の“挿し絵”は、世界の名画!エッセイとアートで楽しむ、おもいきり贅沢なカラー文庫。


――感想――
見ての通り、今回は二冊まとめて感想を書かせてもらいます。

作家界ではもう大御所である阿刀田先生。その著作を読ませてもらうのは初めてでしたが、いやほんとに面白いのなんのって二冊とも評判の高さも納得の出来映えだった。
ギリシア神話にかんする知識をとにかく初心者にわかるように工夫を凝らし、一冊の書物となしている。学術書や専門書で扱われるような内容を小説のような語り口で説明してくれるので、そうめんをするするすするようにすんなりと理解することができた。
入門書として、これ以上妥当な本はないのではないだろうか。

ゼウス、オリンポス十二神、トロイア戦争、ヘラクレス、パンドラ……。
個別の単語ならある程度知っている人はいるだろうけど、そこから一歩踏み込むと途端にわからなくなるのがギリシア神話ではないだろうか。私もそうだった。
けれどギリシア文化というのは、思った以上に私たちの生活に深くかかわってきているという事実がある。
「マラソン選手がアキレス腱を切り、モルヒネで激痛を抑えたが、ついにオリンピックへの出場は断念した」

たとえばこの一文。この一文に出てくる四つのカタカナはすべて古代ギリシャに起源を持っている。ギリシア神話に端を発し、今もなお私たちの周りで形を変え生き残っている文化が意外に多くあることに、私はまず驚いた。

でもなによりも、神話に登場する名だたるヒーロー&ヒロインたちの劇的な恋愛模様に創作脳を刺激されずにはいられない。
ギリシア神話の神さまというのは姿形も見えない概念のような崇高な存在ではなく、とにかく人間くさい。恋もするし嫉妬もするし、わがままだって好き放題。好色家で有名な主神ゼウスは、見初めたらすぐに神と人間見境なく事に及ぼうとする女好きで、その度に嫉妬に狂う正妻ヘラの様子も、まるで人間の夫婦のようではないか。
神と人間の、二つの存在の間で繰り広げられる激しくも美しい愛憎劇こそがギリシア神話最大の魅力なのではないかと思う。後世何世紀にもわたって文学の題材とされてきたのも納得である。

その点にかんしても阿刀田先生の切り口は絶妙で、学問的な解釈に固執せず、そこはさすが小説家、自身の想像力を駆使した独特な見解を巧みに語るところが実に愉快。
そもそもギリシア神話というのは人の創作物なだけあって、解釈が多義にわたるエピソードがたくさんある。もともとは民話だったものが派生してギリシア神話にくっついたり(ヘラクレスの十二の試練など)、これが絶対というエピソードはほとんどないに等しいのではないだろうか。
しかしだからこそ、想像する甲斐があるのではないだろうか。たとえばゼウスが神、人を問わず多くの子をなすほどの好色家だったという人格づけは、当時のギリシア人の自分が神の子であったらという願いの表れでもあったとされている。トロイア戦争は、増えすぎた人間を減らすための神の仕向けた結果ともされている。
改めて内容を整理してみると、個々の物語が時系列的にまたは因果的に繋がっているという事実が誠に面白い。ギリシャ人の想像力、芸術性、そしてストーリーテラーとしての豊穣な才能には驚かされてばかりだ。

さて、二冊まとめて感想を書いてきましたが、せっかくなので二冊の共通点と違いを簡単に紹介しておこうかと。
この二冊は刊行した時期に大きな差があるため、神話の解釈も時流とともに少しだけ変化した部分も見受けられるけど、ほとんど大差ないと言えるでしょう。

共通点としては、有名なエピソードを一話ずつピックアップして進むという形をとっています。有名と言っても、マニアックな知識や雑学を随所で交えてくるので、内容量以上に満足できるのではないかと。他の専門書にあるよな世界の創世から順に流れを追う手法より格段にわかりやすく、そしてなにより読みものとして充分に楽しむことができます。
取り扱っているエピソードにかんしては、被っているものもあればどちらか一方にしかないものもあるので、そこは自分の目で見極めてください。

違いは、『私のギリシャ神話』には豪華な世界の名画がカラーで掲載されているということでしょう。これは本当に贅沢だと思いました。読んでみた感じでは、『ギリシア神話を知っていますか』の方が若干詳しかったように思いますが、視覚でも楽しみたい方は『私のギリシア神話』をおすすめします。

阿刀田先生の古典シリーズはこれからもどんどん読んでいきたい。


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夏期限定トロピカルパフェ事件/米澤穂信

帰還


どうもお久しぶりです。
一昨日、沖縄より帰還し、昨日親の車に乗って地元の愛媛に戻ってまいりました。今は実家の自室よりキーボードを叩いております。
夢のようなバケーションでした。人生の楽園というのは沖縄のような場所を言うのでしょう。

沖縄を訪れたのは今回で6度目ですが、行くたびに景色の変わる土地だと思いました。観光地というのは往々にしてそういうものなのかもしれません。でも不変のものも確かにあって、それはたとえば海の蒼さであったり、地元民の大らかな心のありようでしょうか。
沖縄の言葉に「いちゃりばちょーでー、ぬーふぃだてぃぬあが」というものがあります。「行き会えば兄弟、なんの隔てがあるのか」という意味ですね。他にも「一緒に歌えばその人とは兄弟」という理念もあるらしく、沖縄の人はそれらの考え方を生き様に反映させています。人と人との繋がりを寛容に受け入れ、非常に大切にする人種なんです。
だれかと接するだけで温もりを得られる素敵な旅路でした。

予定していた写真の掲載は次回の記事から順々にやっていこうと思います。
現在は写真を選定中ですね。のんびりと待っていてくださると嬉しいです。






夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)
米澤 穂信

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「この街の、お菓子屋さんの場所を記した地図だね」
 小佐内さんは一度小さくこくりと頷き、それから小刻みに首を横に振った。
「そうだけど、そうじゃないの」
「と言うと」
「これはね」
 秘密を告げるように、真剣なまなざしで、
「わたしの、この夏の運命を左右する……」
「運命……」
「<小佐内スイーツセレクション・夏>」



――あらすじ――
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?待望のシリーズ第二弾。


――感想――
夏らしく(?)小市民シリーズ第2弾、『夏期限定トロピカルパフェ事件』の感想です! 爽やかな色彩を基調とした表紙から清涼感が漂ってきますね。

第一印象としては、前巻も充分に面白かったけど今巻で化けたなという感想。
<小佐内スイーツセレクション・夏>制覇に同伴させられる小鳩くんが、その折々で出逢う人死にのないデザート感覚の日常ミステリを、持ち前の洞察力と考察力で解き明かしていくという形式は変わらず。今回も短編が繋がりあって一つの物語を象るオムニバス形式でもって物語が進みます。
「何だか素敵な予感がしてるの!」と小佐内さんが宣言した夏休みを迎え、二匹の狐と狼は見事小市民の星を掴み取ることができるのだろうか。

甘かったり酸っぱかったり苦かったり、色々な味わいを楽しめる至高のお話の中でも、今回は一章『シャルロットだけはぼくのもの』が今までと違った趣向が凝らされていて面白かった。小佐内さんの恐ろしさを知悉しているはずの小鳩くんが、まさか小佐内さんのデザートに手を出してしまうなんて……! 冒頭で「小鳩くんどうした!?」と驚き蓋を開けてみたら、本当に「どうした!?」な状況になって読んでいるこっちも戦々恐々。事実隠蔽を図った小鳩くんと小佐内さんの手に汗握る知略戦がくだらないのに緊迫感があって、その味わい深さはまさにシャルロットのような極上のデザートをつまんでいるようだった。

他にも健吾の残した暗号の謎を解いたり、相変わらず小鳩くんの周りでは狐の本性をあらわにするきっかけが事欠かない。ツーコールで健吾への連絡を諦めたり、健吾から電話が返ってきても保留にしちゃう小鳩くん、マジ狐。

でも小鳩くんにはもっと気がかりなことがあって、それは小佐内さんの態度。
まるでカップルのように接してくる小佐内さんを訝しむ小鳩くん。これがラブコメの主人公なら、きっと鈍感すぎてヒロインの意図に気づかないとなるんだろうけど、小鳩くんは逆に察しがよすぎるためにラブコメ的解釈を選択肢から外してしまう、というのがまた毒が効いていていい。
実際、今回の小佐内さんはおかしかったからね。途中途中で小鳩くんの気持ちになって「おや?」と首を傾げる点がいくつか。
理解できない行動が目立つ小佐内さん。それでも小鳩くんは、彼女のスイーツ行脚に同伴するのであった。

一方裏方では不穏な事件が蠢いていて、ラストに繋がる展開はさすがでしたね。
物語の締めくくりは本当に衝撃的。あれもこれもこの真相に繋がっていたなんて。固形化される前のどろどろのチョコレートに落とされたような気分だった。得意げな小佐内さんの様子を見てると、もう……。

言葉と本心が乖離することはよくある人間の特性の一つだけど、二人にとってはそれが一番の問題だったんだろう。小市民を目指すと言っても、いつも本性に逆らえないでいる。そもそも小市民は目指してなるものではない。小市民を目指している時点で、それはもう小市民ではない。そんな矛盾を正論にしようと足掻いて、でも心のどこかでは諦めてたんだろうなあ。

「残るのは、傲慢なだけの高校生が二人なんだわ……」

この言葉はぐさっときた。そう、二人は互恵関係。それ以上でも、それ以下でもなく。手を取り合って協力することも、お互いを抑制し合うこともない。側にいることに理由と必要性を求めて、常に相手の裏を勘ぐり、別れ話にすら理性的な思考経路を辿ってしまう。
ああ、悲しいなあ、もの悲しい。結局、『狐』と『狼』は群れることができなかったということか。
舌の上から喉の奥にかけて、しつこいぐらい残滓を残すビターな幕引きだった。



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変身、掟の前で 他2編/カフカ

『Spica-スピカ- 第2号』発刊!


今回は少し時間がかかってしまいましたが、ようやく『Spica-スピカ- 第2号』が発刊されました!
諸事情により人数が減ってしまいましたので物足りなく感じるかもしれませんが、その分一生懸命に書いていますので、楽しんでいただけると幸いです。

感想やアドバイス、辛辣なコメントを心よりお待ちしております。






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 ある朝、不安な夢から目を覚ますと、グレーゴル・ザムザは、自分がベッドのなかで馬鹿でかい虫に変わっているのに気がついた。



――あらすじ――
家族の物語を虫の視点で描いた「変身」。もっともカフカ的な「掟の前で」。カフカがひと晩で書きあげ、カフカがカフカになった「判決」。そしてサルが「アカデミーで報告する」。カフカの傑作4編を、もっとも新しい<史的批判版>にもとづいた翻訳で贈る。


――感想――
もう3週間も前だと、どうして読み直そうと思ったのかが思い出せない。
ともかく図書館で借りて再読。

カフカと言えば難解な作風で知られる有名すぎる作家だけど、人の感性から逸脱した独創的な実存主義を描いた世界観が売り。作品によっては、読む者を発狂させるほどとも言われてる。この代表作4編はまだ安全な方だと思う。
てか、安全とか危険とかいう単語が書物の評価に出てくる時点で、なんかもう色々すごい。

作品が作品だけに感想が非常に難しいので、簡潔に記そうかと。
人に薦めるものでもないしね。興味を持った人だけが読めばいいと思う。


判決

何度読んでも解釈が難しい。
友人や親よりも自分が可愛いと思う主人公が、無意識的に自分の行動や考えになにかと理由をつけて正当化しようとしている。その本性を父に見抜かれ、追求、つまり判決を下され最後には……ってお話なんですが。
主人公に介護を受けていた父は、最初こそしおらしくしていたのに突然気が狂ったようにわめき出したり、それを受けての主人公の反応が色々と不可解であったりと、読み解こうにも一筋縄でいかないんだよなあ。

ちなみにこの『判決』は、カフカがカフカたる所以の作風を確立した作品と言われている。この作品を執筆するにあたって、彼の中でなにが変わったのだろう。


変身

カフカといえばこれ、と言われるぐらいの超有名作品ですね。朝目覚めると巨大な毒虫に変化してしまっていた不幸な営業マン、グレーゴルの半生を記したお話。
どうだろう、読む人によっては気分が沈むお話なのだろうか。私は、内容に反してコメディチックな描写がさすが名作だと思えるんだけど。
つまりこれは人間も虫も変わらないということなんだろう。
実際グレーゴルは虫に変身しても人生に絶望することはなく、むしろ普段どおりの仕事に埋もれる生活を続けようとしていた。本の虫ならぬ仕事の虫。ただ家庭に金を運ぶだけの働き蟻みたいなもの。
このお話の酷な点を挙げるとするなら、グレーゴルの身の上に降った不幸ではなく、彼の家族の対応だと思う。今までグレーゴル一人に家計を支えてもらっていたというのに、虫に変身した途端の手の平返し。
そしてラスト。それまでの雰囲気から一転、とても晴れ晴れとした描写で締めくくられている。読む人が発狂すると言われる理由がなんとなくわかる1シーンだった。

しかし妹のグレーテに萌えてしまう私は大丈夫か? 自分のラノベ脳がひどい。


アカデミーで報告する

人間の知能を手に入れるまでに進化したサルが、人間界で自分の人生についてを演説するお話。
終始サルの演説が続くだけのごく短いお話だけど、『変身』なんかより私はこちらの方が気が滅入る。人でないものが人のふりをする(サルは意識的に人のふりをしてるわけではないけど)のって、身震いするほど怖い。起源を辿れば人間はだれしもがもとはサルなわけだけど、今となっては別種って印象が根づいてんだよなあ。


掟の前で

これまた短い。わずか4ページにも満たないショートストーリー。
個人的には一番難しいお話だった。門の中に入りたいが門番に「今は駄目だ」と通行を許可されず、「今はだめだとしても、後でならいいのか」と尋ねると、「たぶんな。とにかく今はだめだ」と門番は答える。そうして男は命尽きるまで待ち続けるのだが、とうとう門をくぐることは叶わず、また自分以外の人間が門を訪れることもなかった。
最後に男と門番の核心に触れる会話がなされるのだけど、いやほんとさっぱりです。
会話から推測するに、『掟の門』というのはだれもが一つは持っていて、それは破るべきものだと思われる。実際、門番は「通りたければ通ればいい」と言っているし。けれどそのあとに「おれは一番の下っ端で、中にはさらに屈強な門番が待ち構えてる」と、なんか「やつは四天王で最弱」的なニュアンスの台詞を吐くことで脅しをかけてたりするから、それがなにを意味してるんだろうなあって。

たったの数ページですし、みなさんも興味があれば読んでみるといいかも。


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源氏物語 第九回(ラスト)

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――感想――

宿木

(25歳)匂宮、六の君と結婚。⇒薫、浮舟の噂を聞く。
(26歳)中の君、男児を出産。⇒薫、今上帝の女二の宮と結婚。⇒薫、浮舟を垣間見る。


・故八の宮と侍女との娘浮舟が登場。亡き大君の面影を中の君に投影する薫に、中の君は浮舟を紹介する。浮舟は大君にそっくりなため、それによって薫の自分への未練を断ち切ろうとするのだ。夫匂宮が夕霧の娘と結婚し、お腹の中には赤子もいるというのに、中の君にとっても辛い時期なのだろう。

・浮舟を垣間見たときの薫の驚きと喜びようはなかなかだな。それでいて、自らの幸福を唐の皇帝と比べるという冷静な一面を見せるのは、知的な薫らしい。


東屋

(26歳)匂宮、浮舟に近づく。⇒薫、浮舟を宇治に隠す。


・浮舟の母の結婚観は非常に現実的。妻の座にはついたものの、夫の浮気な態度に困らされるという情景が物語の中で幾度も繰り返されたからこそ、一人の妻を一途に愛し、対等に向き合う関係が理想という考えは新鮮に思えた。
彼女自身、八の宮の娘を生みながら妻の座につけず玉の輿を逃したという苦い体験があるからこそなのだろうな。娘の結婚相手に慎重になるのもわかる。


浮舟

(27歳)匂宮、浮舟を見つけて逢う。⇒浮舟、詩を決意。


・親友である薫の声真似をしてまで浮舟を奪う匂宮は非道というより、狂気そのもの。レイプと変わらないじゃないか。けれど、田舎育ちで世間知らずな純朴な娘にとってはその強引さも魅力に映り、後ろめたさを抱きながらも二人だけの秘密の情愛に浸っていく様子は、ちょっと納得いかないなあ。

・三角関係に思い悩みすべての根源である自分を抹消するため、入水自殺を選ぶその潔さは浮舟の魅力の一つだろうけど、これを悲劇と呼ばずしてなんと呼ぶのだろう。恋愛観が激しすぎるよ。


蜻蛉

(27歳)浮舟、行方不明。


・浮舟が行方不明になって周りは大騒ぎ。薫と匂宮との事情を知る優秀な侍女だけが、事の顛末を冷静に分析している。事件に懐疑的な薫と匂宮が、込み上げる悲しみを押し隠し、お互いの腹を探り合うような虚々実々の駆け引きを繰り広げるところはとても面白い。


手習

(27歳)浮舟、発見される。⇒浮舟、出家。
(28歳)薫、浮舟の生存を知る。


・だれもが死んだと思っていた浮舟だが、実は生きていた。一度は死を決意したが、死に損なって恥を晒すことを恐れ自暴自棄になった果てに、貴公子の幻を見て、気づけば森の中で倒れていたという。発見したのは初瀬参詣中の僧都一行であり、それを機に浮舟は出家をする。


夢浮橋

(28歳)薫、横川の僧都を訪ねる。⇒、浮舟、弟との対面や薫の手紙を拒否。


・本文にもあるとおり意外と呆気ない幕切れだな。浮舟が比叡山で出家したことを知った薫は浮舟に会いに行くが、浮舟のことを想った僧都に拒絶され、せめて手紙だけでもと弟の小君を遣わせるが、浮舟の意思は固い。薫はだれかが浮舟を囲ってるのではないと疑心暗鬼に駆られ、自己反省もない。

・もしかすると、源治さん没後の話の主人公は浮舟だったのだろうか。「ヒーローは~」ではないけど、主人公が遅れて登場したのでは。自己反省のない薫と、死の淵から蘇り意思を貫こうとする浮舟を見比べていると、そう思わずにはいられない。なんにせよ、これで物語は終了だ。



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Author:つかボン
前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
しかし落ちるところまで落ちればあとは昇るだけ、それは可能性の獣。

同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
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