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“葵” ヒカルが地球にいたころ……①/野村美月

事実は小説より奇なり


『飛び降り自殺を図ろうとした少年,見知らぬ美少女に突然キスをされ救助される』

月並みなサブタイだけど、これは「まさに」でしょう。
どんなラノベ展開だよ。
彼女の正義感の背景にある事情も「まさに」という感じ。

いや、ここは素直に彼女の勇気を褒め称えましょう。






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野村 美月 竹岡 美穂

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「な、泣かねーよっ、あほう」
 目をむき頬を熱くして否定すると、ヒカルは明るい眼差しで是光を見つめて、
「うん、そのほうがいいや。ぼくは、笑いながら見送ってほしい」
 澄んだ声で言った。
「約束だよ、是光。ぼくが宇宙へ旅立つとき、きみは最高の笑顔で、さよならを言うって」



――あらすじ――
「心残りがあるんだ」恋多き学園の“皇子”ヒカル―その幽霊が、是光の前に現れそう告げた。このまま幽霊につきまとわれ続けるなんて冗談じゃない!と渋々“心残り”を晴らす協力をすることにした是光だが、対象の左乙女葵―“葵の上”と呼ばれる少女は、頑なに話も聞こうとせず、生徒会長の斎賀朝衣にも不審がられ、敵視されるハメに。そんな時、ヒカルの死にまつわるある噂が聞こえてきて―!?野村美月が贈る、ミステリアス現代学園ロマンス、堂々開幕。


――感想――
源氏物語の記事を上げている間に感想が溜まっちゃってるんで、頑張って更新ペースを上げていこうと思います(←有限不実行フラグ)。
これも2週間前に読んだ本だしなあ。

さてさて、待ちかねた野村美月×竹岡美穂の新シリーズ。素晴らしい一冊でした。
間違いなく“文学少女”と双璧をなす野村先生の代表シリーズになるであろう。
恋愛小説としてだけでなく、そこに友情要素を加えた青春小説としても秀抜の出来。

外見の凶悪さから周囲に恐れられ疎まれている是光。
眉目秀麗な容姿に生粋のフェミニストかつ女たらしなヒカル。
死んでも見境なく女性を口説こうとするヒカルについつい突っ込んでしまう是光が、なぜかヒカルの姿は是光以外には見えないこともあって、さらに評判を落としてく様が理不尽だけど面白い。
そんな感じで前半はコミカルな二人のやり取りが描かれる。
そうして二人の時間を一緒にすごすうちに、最初は仮初めの友達関係だったのが、少しずつ本音を打ち明け合うようになり心を通わせるような仲へと変わっていく。
是光はそのヤンキー顔のせいで、ヒカルは美しすぎる顔のせいでお互い男友達が一人もいなかったり、親との間に傷を抱えてたりと、容姿も性格も真逆のはずの二人が奇妙な共通点で繋がっていることを知って、真の友情を育んでいくところに心を打たれた。

ヒカルにとって、葵は大切な芸術品のようなものだったんだろう。
大切に思うあまり壊してしまうことを恐れて距離を取ってしまい、それが擦れ違いを生むというのはなんとも悲しい。どれだけヒカルが言葉を囁いても葵には届かなくて、そうとは知らず一心なヒカルの前で葵が吐いた侮蔑の言葉は、どれだけ彼の心に重くのしかかったのだろうか。

それでも是光が諦めなかったから。たった一人の初めてできた友達のために一生懸命になったから、二人は再び出会うことができた。
葵へのプレゼントという名目で是光の取る行動一つ一つに、遅れて生前のヒカルとの思い出が蘇り、過去の情景と現在の情景が重なることで是光の中にヒカルの面影を見せる手法は、卑怯と言ってしまえるぐらい読者のツボを熟知している。
竹岡さんの素敵なイラストも相なって、涙が止まりませんでした。

葵も可愛らしかったのだけど、どこか琴吹さんを思わせる式部帆夏もとても可愛らしい。最初は是光に対してつっけんどんに接していたけど、恋愛相談を受けるうちに惹かれていく流れがもう堪らない!
どうもこのシリーズは1巻ごとに別の女性にスポットを当てていくというスタイルになるみたいなので、遠子先輩のような絶対的ヒロインがいないということになる。だから、もしかすれば琴吹さんの悲劇を払拭できるかも?
葵も素敵だったのでぜひとも今後も出続けてほしいけど、私は帆夏を応援するよ!

あとがきによると次巻は“夕顔”らしいです。
夕顔といえば、六条の御息所の生霊の祟りによって不幸な死を遂げた悲劇の女性。
一体どんな物語になるのか超超超期待です。


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半熟作家と“文学少女”な編集者/野村美月

ナナマル サンバツ


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杉基 イクラ

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前置きで書くネタがないんで漫画の簡単な感想など。
漫画メインで感想書くのは難しいんですけど、これぐらいならなんとかなりそうです。

『ナナマル サンバツ』は『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』や『サマーウォーズ』のコミカライズで有名な杉基イクラ先生の新シリーズ。早押し式のクイズを題材にした青春スポ根(?)ラブコメ的な作品です。
クイズをテーマにしたところ以外はベタベタなのだけど、私はこの安定感が好き。
ヒロインは、可愛くても頭の中はクイズのことでいっぱいな、今流行りの残念系美少女。自分の美貌が周囲からどう見られてるのかも知らずに、勘違いされるような言動や行動を取っちゃうところがグッとくるね。

早押しクイズの掘り下げ方は本格的なので、『高校生クイズ』が好きな人や、普段知り得ない世界に触れたい人には楽しめる気がする。
これからも期待のシリーズです。






半熟作家と“文学少女”な編集者 (ファミ通文庫)半熟作家と“文学少女”な編集者 (ファミ通文庫)
野村 美月 竹岡 美穂

エンターブレイン 2011-04-30
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 ありがとう。
 オレの本読んでくれて、そんなに嬉しそうに笑ってくれてありがとう。



――あらすじ――
新しい担当編集の天野遠子嬢は、清楚な美人だった。――が、いきなり本棚の前でグルメ批評を始めるわ、ほんわかにこにこと容赦なく原稿を修正してくるわ、売れっ子高校生作家たるオレが、どうしてこうも振り回される!? そんな時届いた脅迫状じみたファンレター。そこにはまだ刊行される前の小説の内容が書かれて……って差出人は、まさか!? 高校生作家雀宮快斗とその担当編集者遠子が織りなす、物語や文学を食べちゃうくらい愛する”文学少女”の、最後の物語。


――感想――
ついに“文学少女”シリーズ最終巻。と同時に、私がこのシリーズの感想を書くのもこれがラストです。
“文学少女”シリーズは私が本格的にラノベを読み始めて間もないころに出会った作品で、ラノベに対する価値観を根底から覆してくれた貴重な作品でもありました。
思い入れが深いだけに終わってしまうの堪らなく悲しく、寂しい。
最後にこの感想を、お別れのハナムケとさせてもらいます。

華やかなラストを飾ってくれる主人公は心葉くんでも遠子先輩でもなく、新キャラの雀宮快斗という名の高校生作家。
『第二の井上ミウ』と仄めかされる高校生作家の視点から、“文学少女”シリーズのその後の世界が描かれる。

長編かと思いきや、快斗くんとその担当編集となった遠子先輩の二人がメインに描かれた4つの短編からなる短編集だった。4つの短編が繋がって、1つのお話を作り上げるような形になっている。
人間の本能的な愛憎を活写したお馴染みのシリアスストーリーではなく、終始明るめな雰囲気。
明るい雰囲気の中で、一人の作家の挫折と成長の姿が、このシリーズらしい優しさに満ちた物語とともに描かれている。


半熟作家と“文学少女”な編集者

「“文学少女”みたいでしょう」

物語は快斗くんが小学生のころの回想から始まります。
この回想は毎話冒頭で語られるのだけど、回想の中で快斗くんは図書館にいて、側にはいつも一人の女性がいる。
その女性の正体がわかるのは、まだ先の話。

題材は『伊勢物語』。
井上ミウと同じ中学生デビューを果たし、超人的な速筆と話題性の高さからデビュー後に出した作品が尽くベストセラーとなり、ルックスの良さから雑誌モデルまでこなす売れっ子作家の雀宮快斗。
けれどナルシーで俺様でプライドの高い快斗くんは、担当編集と衝突しては縁を切られることもしばしば。ネット上の自分の悪評を見ては、パソコンを壊そうとして新しい担当編集の遠子先輩に宥められる日々。
遠子先輩の立場が高校生のころとは真逆になってるのがすごく新鮮だった。

そんなある日、快斗くんのもとに一通の手紙が届く。
そこには、来月発売の雑誌に掲載する予定の彼の人気シリーズ『ハードボイルド高校生・業平涼人』の内容が書かれていた。
手紙の差出人は、物語の主人公であるナリヒラが、ヒロインの一人である清花と距離を置こうとすることが許せないと言い、書き直しを要求してくる。
まだ発売されてないはずの小説の内容をなぜ知っているのか。
快斗くんは、手紙の差出人が遠子先輩ではないかと疑い始めるのだが……?

事件の始まり自体は非常にワクワクする出だしだったのだけど、真相は呆気なく明かされちゃいます。
けれどその後の快斗くんと遠子先輩のやり取りがよかった。
快斗くん宛てに届いたファンレターを温かな声で読み上げる遠子先輩の姿が、次第に思い出の中の彼女と重なっていき、
 ――“文学少女”みたいでしょう?

思い出の中の彼女の言葉ともに、封印したはずの過去が呼び起こされていく。

それは、快斗くんの初恋だった。


半熟作家とスキャンダラスな淑女

「好きって気持ちは、とっても甘くて酸っぱいの。それで胸がきゅっとして、切なくなっちゃうんだよ」


題材はマーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』。
薫風社のパーティーで出会った女子大生作家の早川緋砂と、遠子先輩を巡って口論になったり、その様子を熱愛と勘違いされてスクープ扱いされたり、さらには遠子先輩にまで勘違いされたりと、災難が続く快斗くん。
思い出の彼女と重ねてしまって以来、遠子先輩のことを異性として意識してしまい、いい格好をしようとする快斗くんはまだまだ少年らしさが抜け切らなくて面白い。遠子先輩が素敵すぎるのも問題だねー。

そんなとき、遠子先輩に相応しい作家の座を賭けて、薫風社のWEBで行われる短編小説の競作企画で早川緋砂と競い合うことになった快斗くん。
遠子先輩のためとあって張り切る快斗くんは、初めて読者の目線を意識した物語を書こうとするのだった。

結局、結果は悲惨なものだったのだけど、今まで自分の書きたいようにしか書いてこなかった快斗くんにとって、初めて読者のことを考えたというのは大事な成長の証だった。
そして早川緋砂にとっても、今回の出来事は大きな前進となった。
書きたくもない話を書かされ、やりたくもない水着モデルをやらされ。
作家にとって、不本意な形で評価されるのはやっぱり悔しいんだろうなあ。
でも、彼女はきっと、遠子先輩が照らしてくれた未来への道を辿ることで、素晴らしい作家になるに違いない。


半熟作家と空騒ぎの学友達

「えへへっ、だぁぁぁいすきな人なの」


題材はシャイクスピアの『ハムレット』。
2話で遠子先輩の知りたくなかった事実を知った快斗くんは、半ば自暴自棄になっていた。
しかも仕事の打ち合わせに珍しく遅れてきた遠子先輩は、右側だけ三つ編みという奇妙な出で立ちで、実は前の日にある人の家に泊まっていて、それはその人の悪戯だと知ってからは乱れに乱れる。
というか何気ないシーンだけど、シリーズファンにとってはニヤニヤしてしまうファンサービスだよね!

しかし高校生作家の快斗くんは、身分の名のごとく高校生なので、学校に行かないと留年してしまうという事実が発覚してしまう。嫌々ながらも自らが籍を置く男子校に赴いた快斗くんは、そこで色々な人物と出会う。
クラス委員長の寒河江。
軽薄でちゃらい仁木。
子犬のように人懐っこい鳴見。
そして鳴見とともに、近々開催が予定されている他校との合同球技大会に、卓球のダブルスとして参加することになった快斗くん。
けれど卓球の練習を開始した快斗くんの身の回りでは、陰湿なイジメが起き始める。それは快斗くんにとって辛い過去を思い出させるものだった。

そういえば、寒河江、仁木、鳴見の三人が描かれた口絵なんだけど、「仁木」と「鳴見」の文字が入れ替わってるよね。お茶目さんなんだからー。

事件を解決するために遠子先輩も動き出すのはいいんだけど、その年になって制服が似合うってどういうことなんだよ。挿絵にまったく違和感がないって、どういうことなんだよ!
なにはともあれ、クラスメイトとの確執を乗り越えた快斗くん。
恥も外聞もなく、汗臭くてもクラスメイトのために頑張って得た気持ちが、いつか彼の書く糧になればいいな。


半熟作家とページを捲る“文学少女”

「わたしも大好きだよ。本を読むと、いろんな気持ちになれたり、いろんな場所で、いろんな冒険ができるから。本の中にはね、なんんんっでもあるんだよ」


題材は川端康成の『伊豆の踊子』。
いよいよ物語も終盤。
遠子先輩から驚きの報告を聞かされた快斗くんは、ショックのあまり伊豆の温泉宿まで逃げ出してしまう。
けれど追いかけてきた遠子先輩に捕まり、そのまま宿で原稿を書かされることに。
天然な遠子先輩には傷心した快斗くんの気持ちは伝わらず、痺れを切らした快斗くんは強行作戦に打って出る。けれどもこれもまた見事にかわされてしまうのであった。
ほぼ直球ど真ん中の物言いだったのに、遠子先輩天然すぎ!

でも、自分を追いかけてきてくれたことが嬉しくて、ただ側で笑ってくれていることが嬉しくて、快斗くんの胸から少しずつ暗い感情が抜け落ちていく。
三つ編みをさせてとお願いしたのは、ひょっとしたら快斗くんなりのせめてもの抵抗だったのかもしれない。
でもそのことをけじめとして、彼は再び原稿と向き合うようになる。
クラスの連中となにか一つのことを必死にやり遂げたときの興奮と感動。
恋する気持ちと、それが叶わなかったときの切なさ。
“文学少女”な編集者が教えてくれたすべてのことを書く力に変えて、物語を綴っていく。

伊豆からの帰り道、電車の中で自分の本を読んで笑ってくれる少女の姿を見て、涙を流した快斗くん。
一人の作家の成長した姿が、そこにはあった。

思えば、新主人公によるまったく新しい物語だったはずなのに、今回は最終巻だけに今までの集大成という印象が強かった気がする。
影から仄めかされる作家としての心葉くんの成長と活躍。
半熟作家だった快斗くんに導きを与えた編集者としての遠子先輩。
かつての遠子先輩が心葉くんにしたように、快斗くんに物語を書くきっかけを与えた思い出の中の彼女。
みんな、だれかの想いに応えながら自分の人生を真っ直ぐに生きている。

そして快斗くん。
彼が再び訪れた思い出の図書館で出会ったもの。
涙が止まらなかった。まさかこんな素敵なサプライズがあるとは思ってなかったからっ。
きっと彼は、これから素晴らしい作家になる。色んなことを経験して、色んな辛さや悲しみを知って挫折することがあっても、彼なら真っ直ぐに生きていける。“文学少女”とかけがえのない時間をすごした彼なら。
ああ、なんて透明なんだろう。

親愛なる“文学少女”よ、永遠に。



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“文学少女”と恋する挿話集4/野村美月

腫れもの


最近色々なことに集中できません。感想が雑になっているのもそのせい。
というのも、1ヶ月ぐらい前に記事で触れた喉元のできもの、それ自体は結局悪いものではなかったのですが、腫れが引くどころか日を追うごとに大きくなっていて、今は喉を圧迫するぐらいに成長してしまったそれが気になってまともに集中できないのです。
実際に見てもらえれば一目瞭然なのですが、「え、首の右側だけ筋肉つきすぎじゃない?」状態。そのせいで血液の流れが悪くなってるのか、頭も若干痛い。
というか明らかにヤバい気がするので、本当は9月にフォローアップのつもりで再検診の予定を入れていましたが、状況が状況なだけにできるだけ早い日に、具体的には来週に前倒ししてもらいました。
以前病院に行ったときは、「悪いものじゃないから様子見しておくけど、邪魔で取り除きたいなら手術で摘出だから」と言われましたが、さてさて。


<拍手コメ返信>
ありがとう――。
『すべての訪問者に、ありがとう』






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「ね、心葉くんは、きっと恋をするわ。そうしたらもう、恋がくだらないなんて、言えなくなっちゃうわよ」



――あらすじ――
「心葉先輩、大発見ですー!」文芸部に飛び込んできた菜乃の“発見”とは?『“文学少女”見習いの、発見。』、部屋にいつの間にか置かれていた薔薇の模様の指輪。これは誰かから遠子へのプロポーズ!?謎を探る遠子とそれに振り回される心葉だったが…『“文学少女”と騒がしい恋人たち』ほか、甘くほろ苦いエピソードが満載!美羽、ななせ、遠子の“その後”を描いた書き下ろしも収録の、物語を食べちゃうくらい愛する“文学少女”の恋する挿話集第4弾。


――感想――
短編集もいよいよラスト。
本編を補完する形で続刊されてきたこの短編集は、なによりも野村先生の愛情が感じられるシリーズでした。その証拠に、短編集のあとがきで野村先生は何度も「○○のこんな物語が書いてみたいとずっと思っていました」と語っています。
その愛情は私たち読者にもしっかりと伝わっています。
そして、野村先生に負けないぐらいの愛情を注ぎながら私たちはこの短編集を読み続けてきたのです。きっと魚谷さんのように、野村先生の愛情が伝染したのでしょう。

そんな夢見がちな気分にさせてくれる最後の短編集は、前半は遠子先輩と心葉くんのお話がメインに描かれ、後半は遠子先輩、琴吹さん、美羽といった主要ヒロインたちのそれぞれの未来を暗示するようなお話と、井上舞花や姫倉蛍といった本編にはほとんど関わってこなかった人物たちのお話で彩られている。
どれもビターチョコレートのように甘くてほろ苦い物語ばかりで、頬がとろけてしまいそうなほど表情を柔らかくして読むことができた。

『恋する挿話集』の名のごとく、みんな、恋をしていた。
このシリーズの人物がだれもかれも魅力的に映るのって、きっとみんなが上辺だけでない本心からの恋をしているからなんじゃないかな。
だれかのための想いと言葉を持った人たち。そういう人たちのもとだからこそ、こんな素敵な物語は生まれるべくして生まれるんじゃないだろうか。

そろそろ各話ごとに紹介していこうと思うのだけど、その前に。一応確認しておかないと勘違いしてしまう人がいるかもしれないから。
今まで私が書いた文学少女の短編集の感想は、実際に収録されている話をすべて紹介しているわけではありません。たとえば今回だと、『“文学少女”今日のおやつ』や『アトリエの内緒話』という話が収録されていますが、そういった掌編は極力感想を省かせてもらっています。主に、私の気力的な理由で。
文学少女の短編集はボリューム満点で読者としては大変嬉しいのですが、感想書きにとってはちょっと苦行なんですよね。
情けない話ですが、そういう理由で省かせてもらっています。今更ですが、あらかじめご了承を。


“文学少女”見習いの、発見。

短編集では初の菜乃登場。
実はこの話だけWEBで掲載されたときに読んでいました。
『銀河鉄道の夜』を読んだ菜乃が、ジョバンニとカムパネルラの関係性にまつわる発見を心葉くんに披露するというお話。
1度目の披露はてんで的外れで心葉くんを呆れさせるだけだったけど、そのあとにカムパネルラに気持ちになって彼らの関係性を今一度想像し直したところに、菜乃の成長過程が見られた。
2度目の菜乃の披露を聴いたとき、心葉くんは優しい眼差しとなり、思わず菜乃の頭を撫でてしまう。彼が胸の内で想い描いた人は誰だったのか。
そのことを考えると、こちらまで優しい眼差しとなってしまった。


“文学少女”と物思うふ公達

時期的には心葉くんが1年生のころの文化祭のお話。
遠子先輩から、去年の卒業生に『藤の君』と呼ばれていた女の子にも大人気の先輩がいて、その人が遠子先輩の憧れの先輩だったと聞いて、心葉くんが嫉妬しちゃうというお話。
見習いシリーズの落ち着いた心葉くんも好きだけど、やっぱりこのころのまだまだ未熟な心葉くんもいいなー。
不貞腐れて自教室に戻った心葉くんはクラスの出し物である手相占いに参加させられることになる。そこでは琴吹さんの可愛いらしい一面が見えたり、追いかけてきた遠子先輩とお互いの手相を侮蔑し合ったり。心葉くんに結婚線が4本あるってところについついニヤニヤしてしまった。うん、数えてみたら確かに4人だ。
でもそのあとの遠子先輩の占いシーンはとても印象的だった。

オチはなんとなく予想できたけど、色々と満足できるお話でした。


“文学少女”と幸福な子供

こちらも心葉くんと遠子先輩のお話。
高校1年の冬の始まり、いつもと変わらない朝だったはずなのに、登校中の道でたまたま見つけてしまった鳥の死骸に、心葉くんは美羽の姿を重ねてしまう。
まだ傷が癒えていないこのころの心葉くんにとって、それはさらに傷を抉るようなもの。自分を情けなく思いながらも、どうしようもない恐怖に駆られた心葉くんは学校に行けなくなってしまう。
そんな日が数日続き、心身ともに参ってしまった心葉くん。
そんなときでも、彼の支えとなってくれたのは遠子先輩だった。側にいてほしいときに側にいてくれる。それこそが他のヒロインにはない、遠子先輩の最大の魅力だと私は思う。
アンデルセンの『最後の真珠』で、幸福な家庭に生まれた男の子に唯一足りなかったもの。その意味を心葉くんが知るのは、もう少し先のことだ。


“文学少女”と騒がしい恋人たち

これは面白かった。
ある日文芸部室に置かれていた指輪を見て、遠子先輩はそれが心葉くんの忘れものではないかと勘繰ったり、かと思いきや、遠子先輩が毛嫌いする速水生徒会長が、遠子先輩に宛てたものではないかとという疑惑が浮かび上がったり、さらには速水会長を影から熱い眼差しで見つめる女子生徒まで現れたりと、タイトルどおり終始騒がしいお話となっている。
そんな状況を遠子先輩が放っておくわけはなく、速水会長とその女子生徒をお茶会にお招きするが……?

オチは相変わらずなのだけど、遠子先輩の想像が的を外れるのって意外と珍しいのでは? なんて思った。
しかし遠子先輩が心葉くんを異性として意識し始めたのって、このときのことが原因だったんだ。


不機嫌な私と檸檬の君

今回の中で一番印象的で、好きなお話。主役は中学二年生になった心葉くんの妹、井上舞花ちゃん。
クラスメイトの女の子たちと好きな人の話をしていて、質問を振られた舞花はつい「お兄ちゃん」と言いそうになり、咄嗟に「大西」と言ってしまう。
大西くんはクラスで孤立したどこか陰気な少年だった。舞花は当然、大西くんのことなんてなんとも思っていない。舞花の好きな人は、小さいころから兄である心葉くんだったのだから。
けれど、このことが原因で大西くんのことを次第に意識するようになった舞花は、大西くんの知らなかった一面を知っていくようになる。
多感な女子中学生の初々しい内面がとても甘酸っぱい。相手を気にかける気持ちはまるで初恋のようで、でもそれを認めたくなくて。
もっと素直になれていれば恋が生まれたかもしれないのに。
檸檬のように酸味が効いた切なさが胸の中でちょっとだけ疼いた。

でもきっと、こういう体験こそが思春期には大事なんだと思う。
『私』が檸檬を手に取ったとき鬱屈が晴れたように、辛さや悲しみをすーっと拭い去ってくれるものがこの世にあるんだということを知るために。


≪それぞれの想い≫

ここからは掌編が続きます。
収録されている内容は、
『美羽~戸惑いながら一歩ずつ』
『ななせ~天使へのコール』
『蛍~嵐のあとの陽の中で』


個人的には美羽の可愛さが堪りませんでした。
芥川くんのことをなんとも思ってないと言い聞かせながらも、会うときにはミニスカートを履いたりして。でもそのことになにも触れてもらえなかったら不機嫌になってしまって、つい心葉くんと比べるような言動を口にしてしまう。
心葉くんのように振り回せない芥川くんに苛立ちを覚えながら、そんなことで機嫌を悪くしてしまう自分に嫌気を覚えながら。
けれどそれって、美羽が芥川くんのことを特別に思ってる証拠だよね。
でも、芥川くんのほうもちゃんと美羽ことを意識していたのだ。最後に見せられた芥川くんの意外な一面に動揺してしまう自分の気持ちに戸惑いながらも、美羽は一歩ずつ芥川くんに寄り添っていくのだった。

琴吹さんと姫倉蛍のお話も、明るい未来を予兆させる素敵なものでした。
二人にはまだまだ乗り越えるべきしがらみが残っているけど、きっといつか幸せを掴み取れる。


≪“文学少女”の気持ち≫

3つの掌編で描かれる“文学少女”の気持ち。
 わたしが、どれほどあなたに恋していたか。

本の冒頭で語られたこの言葉。その意味するところは、きっとこのお話の中にあったんだと思う。遠子先輩がどれだけ心葉くんに恋していたか、3つの掌編がそのすべてを物語っている。
なんて愛々しくて、美しいのだろう!
タゴールの『百年後』のように、いつまでも歌うように語り継がれてほしい。
そんな、恋するお話だった。



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“文学少女”見習いの、卒業。/野村美月

20000HIT御礼!


というわけでいつの間にか20000HITしてましたー!
我がブログ『BOOKDAYs!』を訪問してくださったすべての方に多大なる感謝を!
例のごとく言われるまで気づかなかった間抜け野郎ですが、これからも見捨てず足を運んでくださると嬉しいです。

いちいち報告しなくてもだれも期待なんてしていないでしょうが、HIT記念の企画は用意してなかったりします(汗)。
こういうときに企画が思いつく人って本当に羨ましい。ちょっと不甲斐なさに自己嫌悪です。
実は企画がないこともないんですが、ぐだることが目に見えてますので。晒さないで済む恥をわざわざ晒したりはしません。

こんな具合にこれからもマイペースに続けていきます故、どうぞよろしくお願いします。






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野村 美月 竹岡 美穂

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 わたしの初恋。
 なんて、贅沢な片思いだったんだろう。
 一番大好きな人の、あんなに近くにいられて、毎日、話をしたり視線を交わしたり、悩みを打ち明けたり、頭を撫でてもらったり。
 何度も何度も、好きですと伝えられた。
 あんな幸福な片思いなんてない!



――あらすじ――
もうひとつの”文学少女”の物語の、終わりとはじまり。
「わかったでしょう? 邪魔よ」 親友の瞳から、そう告げられた菜乃。しかも心葉は、そんな瞳とつきあうという! 仰天する菜乃の前に、さらに、瞳の過去――人を死なせたと噂された三年前、彼女の側にいた人物が姿を現す。瞳に何か起こっているなら、引くわけにはいかない! 心を決め、動きはじめた菜乃に、心葉は一冊の本を差し出し……。瞳が抱く秘密とは? そして、迫る心葉との別れと、菜乃の初恋の行方は――。もうひとつの”文学少女”の物語、堂々完結!


――感想――
見習いシリーズ、完結!

うわーん、菜乃大好きだったよー!
最初のころは、菜乃にこんなにも親和感情を抱くとは思っていなかった。たった3冊だったけれど、自分の中で彼女の存在がどんどん大きくなって、いつの間にかシリーズを終えるのが堪らなく嫌になっていた。
本編もそうだけど、このシリーズの最後はどうしてこんなにも寂寥の想いに包まれるんだろう。読み終わっても数日の間は、心に空白ができたような侘しさをふいに覚えることがある。
文学少女シリーズを愛しいと思う気持ちは、きっと理屈なんかじゃないんだ。


“文学少女”見習いの、寂寞。

最後に夏目漱石の『こころ』を起用しますか……。
『こころ』は浅識な私に多大な影響を与えた作品の一つ。だれもが持つ人の本能的なエゴイズムに翻弄され、それに相反する罪悪感に縛られながら生と死の狭間で苦悩する人々の生々しい描写が衝撃的だった。

菜乃の親友である瞳ちゃん、図書館司書の忍成先生、そして二人の過去に大きなしがらみを残す櫂くん。
読んでいくうちに彼らが『こころ』の『お嬢さん』、『先生』、『K』に重なり、次第に露わになる事件の全貌、その深淵さには息を呑んだ。

純粋で狂気的な想いに囚われ、それと同じぐらい激しく身を焼く嫉妬心に駆られ、たった一つの真実に気づくことができなかった瞳ちゃんと忍成先生。
純粋すぎるが故に擦れ違い、狂気的すぎるが故に過ちを犯す。
複雑で重厚な過去に繋がれた彼らの取った行動は、自身の罪悪に対する罰だった。互いに罪をなすりつけ合うのではなく、自分だけの罪だと主張し合ってすべてを背負い込もうとする。
そうやって徐々に壊れていく二人の姿は見るに堪えなくて、胸が締めつけられるような思いだった。

だからこそ、心葉くんが想像したたった一つの真実、櫂くんの願ったたった一つの未来を知ったとき、涙が流れ出るのを止めることができなかった。どうしてもっとわかり合うことができなかったんだろうと、ただ悲しくて。
『K』ではなく『私』になりたいと言った櫂くん。そんな彼が望んだ未来は永遠に訪れることはない。
その事実が忍成先生により深い罪を意識させることになる。いつもだれかの心に優しく溶け込む菜乃の真っ直ぐな想いも、『本当の淋しさ』を知る忍成先生には届かない。
でも、心葉くんには届いた。
きっとこの事件は、心葉くん一人では解決できなかった。心葉くん一人では、忍成先生がずっと胸に秘め続けてきた彼だけの真実を告げさせることはできなかったはずだ。
忍成先生と同じように『本当の淋しさ』を知る心葉くんに、『青空に似ている』の真実を告げる勇気を菜乃が与えたから。

この先、瞳ちゃんと忍成先生の罪が償われることはない。『本当の淋しさ』が消えることもないのだろう。
けれど、最後に忍成先生が告げた真実は、きっとだれかの救いになった。
このとき、止まったままだった物語のページを、彼は捲ったのだろう。


“文学少女”見習いの、卒業。

ラストはチェーホフの『桜の園』をモチーフにしたお話。
心葉くんの卒業を間近に控え、琴吹さんの家でバレンタインのチョコレート作りに励んだり、デートの誘いで心葉くんを琴吹さんと取り合ったり、そのデートで心葉くんと動物園に出かけたり。
明るい時間をすごす中で否応なく近づいてくる別れのときに、菜乃は思いを馳せる。
それは、彼女が『本当の淋しさ』を知った瞬間だった。

思えば、菜乃はこのシリーズの登場人物にしては珍しく、歪んだ過去も重く暗い秘密も抱えていない、清廉潔白で純粋そのもののヒロインだった。
彼女が文芸部に入部してから知った辛さや悲しみは、彼女が“文学少女”へと成長するためのかけがえのない糧となった。それを示唆するかのように、『初戀』のときには見られなかった遠子先輩の絵の前に、自身の意志で立つシーンがある。
 ありがとうございます。

初めは心葉くんに好かれるためだった。でもいつしか、菜乃の中で“文学少女”という存在は生き方の象徴そのものになっていた。
恋敵でもあり、目標でもあった“文学少女”に感謝を唱えた菜乃。
まさにこのとき、彼女は見習いから卒業したのだろう。

運命の卒業式当日、菜乃は心葉くんをある場所、「だれにも見られずにリボンを結べたら願いが叶う」と噂される木の前に呼び出す。
周りから無謀だと言われ、自分でも叶わぬ恋だとわかっていた。
でも止められなかった。
側にいられることが嬉しくて。
好きだと伝えられることが嬉しくて。
こんな素敵な片想いなんてない!

菜乃が心葉くんに告げた言葉と、それを受けた心葉くんが菜乃に贈った言葉が、やんわりと胸に広がって、これからずっと忘れらないものとなった。
前向きで明るくて、勇敢で困っている人を放っておけない優しい菜乃が大好きだったよ。
きっと彼女は大丈夫。
心葉くんが歩いていった道。そしてこれから菜乃が歩いていく道に、本当の幸いがあらんことを。

「ようこそ、新しい生活」




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追憶の記憶、再び。


今秋公開予定の劇場作品『とある飛空士への追憶』の公式サイトがオープンしました!
トップページがいい。うん、これはすごくいい。
まだまだ未開示情報が多いですが、いよいよって感じがしてきましたね。

当初、製作がマッドハウスというだけでも驚いていたのですが、スタッフがまた随分と豪華。
もちろん原作ファンとしては嬉しいことなんですが、正直ここまで力を入れた作品になるとは思っていなかったのですごく感動してしまったんです。製作側がこんなにも作品を愛してくれているんだなって。
これは今年切っての話題作になる予感!

あー、たーのーしーみーだー!






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『私のからだのなかにつよく動くもの、
 そうして胸にやどっているものは、なにかしら。
 神さま、私の心をこれほどまで高めるものこそ、
 すなわちまごころの力でありますように』



――あらすじ――
恋に破れた「炎の闘牛」、柔道部の牛園くん。それでも遠子を思いきれず、思い出が欲しいと心葉に詰め寄り…『“文学少女”と炎を上げる牛魔王』、クラスにも、気安い笑顔を向けてくる担任の竹田千愛先生にもなじめない中学生の仔鹿だが―『迷える仔鹿と嘘つき人形』ほか、遠子の想いを目にした紗代や、夕歌と毬谷先生の出会いなど、甘くほろ苦いエピソードが満載!物語を食べちゃうくらい愛する“文学少女”と、彼女を取り巻く人々の、恋する挿話集第3弾。


――感想――
恋する短編集第3弾。
文学少女リレーもいよいよ佳境に入ってきました。

今回はマリちゃんと夕歌、その後のマリちゃん、先生になった竹田さんと流人くんの物語がメインに描かれる。
どれも遠子先輩のようについ料理の味にたとえながら読んでしまいそうになる、素敵なお話ばかりです。


“文学少女”と炎を上げる牛魔王

以前にも一度出てきた牛園くんのお話。
遠子先輩の勘違いの果てに「牛魔王!」と言わればっさりふられた牛園くんが、それでも諦め切れず「せめて天野との思い出が欲しい!」と心葉くんに迫ります。
個人的にはすごくお気に入りのお話だった。
『潮騒』の千代子が一番好きだと言った牛園くんが、どんな想いで遠子先輩に気持ちを伝えたのか。どんな想いで感謝を述べたのか。想像すると瞼が熱くなった。
以前までは単細胞でちょっと馬鹿な人ってイメージしかなかったのに、相変わらず人物の掘り下げ方が上手いよなあ。

それにしても、このときの心葉くんはまだまだ子供っぽくて、外伝読んだあとだとちょっと懐かしい気持ちになった。


“文学少女”と恋しはじめの女給

みなさんお待ちかね(のはずだよね!)の魚谷さんのお話です!
本編の『水妖』の合間の話だね。
実は魚谷さんが心葉くんを親しく思うようになった理由って結構謎だったんだけど、なるほど、恋する気持ちは伝染する、か。
きっかけは些細なものだったんだろう。遠子先輩の温かい言葉がより一層魚谷さんに心葉くんの存在を意識させてしまって、多感な中学生にはそれだけでも恋を芽生えさせるには充分だった。
私が思うに、魚谷さんが好きなのは心葉くんではなく、遠子先輩に好かれる心葉くんなんじゃないだろうか。

こいし、こいし……。


傷ついた紳士と穢れなき歌姫

マリちゃんこと毬也敬一と、夕歌の出会いのお話。
なんて美しい物語なんだろう! 『天使』の前日談として、二人の間にはこんな宝石のような素敵な時間があったなんて!
それでもふいにマリちゃんの背負う悲しみが顔を出して、深い闇に囚われそうになる描写もあってドキッとしてしまうときもあるのだけど、このときは夕歌が側にいてくれて、「ずっと私の側にいてくれますか?」と言ったマリちゃんに応えていたのに。
このあとのことを思うと胸が掻き毟られるような寂しさに襲われた。
どうして人は擦れ違ってしまうんだろうなあ。


卵の歌姫と彷徨える天使

本編から随分あとのお話。
今回の主人公の新田晴音さんが小学校のころに井上ミウの『文学少女』を読んだとあるので、このころには心葉くんたちもすっかり大人になってるだろうね。
余談だけど、野村先生のすごいところは、数年後ではなく、十年近くあとの将来の話をあっさり書いてしまうところだと思う。

プロのオペラ歌手に憧れて音大付属の高校に入学したのはいいものの、周りは自分より才能に富んだ人間ばかりで思うように結果を出せないでいた晴音は、ある日自分だけの練習場所でかつて天使と呼ばれていた壮年の男性と出会う。
天使に練習を見てもらうことでみるみる上達していった晴音は、次第にその男性に恋心を抱くようになる。かつての夕歌のように。
晴音と男性の練習風景は暗闇に灯るロウソクのように柔らかな温かみを感じるのだけど、些細なこと消えてしまいそうな脆弱さもあって、ページを読み進めるごとにじゅくじゅくと胸の内が疼いた。
男性が晴音を夕歌と重ねてしまい悲しそうな顔をするところとか、読むのも辛かった。
いつか晴音が、天使の本当の支えとなってくれたらいいな。


迷える子鹿と嘘つき人形

愛想と嘘ばかりで『ホントウ』のない同級生や教師を嫌い、自ら孤立しようとする女子校に通う中学二年生の子鹿里佳ちゃんと、その担任となった竹田さんのお話。
若さ故の過ちからどんどん間違った方向へ進んでしまう子鹿ちゃんの姿を、『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンになぞらえた描写が印象深かった。
空っぽでも、先生として生徒の腕をしっかり掴むことができた竹田さん。
もしかしたら心配なんてしてなかったのかもしれない。でもいつか、それが『ホントウ』になればいいなって思った。


頑張る子鹿と臆病な旅行者

今までのことを反省してクラスの輪に自分から歩み寄ろうと努力し始めた子鹿ちゃん。けれど、思うようにいかなくて困っていたそんなとき、自分の靴箱の中に一通の手紙を見つける。それはラブレターのようでもあり、ストーカーめいた文章が綴られた奇妙な手紙だった。
成り行きで流人くんの協力を得て手紙の送り主を特定するも、相手側はまったく取り合おうとしない。
『ティファニーで朝食を』のホリーに自分は似ているんだと言った、送り主の真意はなんなのか。

ラストシーンは恐ろしいぐらいに美しい。
かつて遠子先輩と心葉くんに自殺から救われた経緯があるからこそ、竹田さんの取った行動には大きな意味があった。
人が当たり前のように抱く感情を抱けない竹田さん。
けれど彼女にも、だれかを救うことはできた。
子鹿ちゃんが変わったように、竹田さんも先生としての経験を通してなにかが変わり始めてるのだろう。


道化のつぶやき

『感情は絶対的である。そのうちでも嫉妬はこの世で最も絶対的な感情である』
ドストエフスキーの言葉にこんなのがあるけど、竹田さんが初めて当たり前に抱いた感情が嫉妬というのは、それだけ人間にとって嫉妬心が原始的で根強いものなんだろうなあ。

赤ちゃんが大嫌いな竹田さんにとって、先生という仕事はこれ以上なく向いてない職業ではないだろうか。赤ちゃんを見て当たり前のように可愛いと思えない竹田さんが、多感な生徒たちと一緒に笑い合ったり泣き合ったりすることなんてできないはずだから。道化の仮面を被って、嘘でも笑いや涙をこぼすのは苦痛でしかないんだろう。
でも、敢えて彼女が先生という職業を選んだのは、自分を変えたいという気持ちがあったから。
だから、竹田さんが最後にあんな素敵な表情を見せてくれたことが堪らなく嬉しくて、涙が止まりませんでした。

すべてを受け止めてくれる流人くんのそばで、彼女はきっと変われる。
この先の未来は描かれることはないのだろうけど、だれになんと言われようと私はそう想像する。だって、想像は自由なのだから。



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Author:つかボン
前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
しかし落ちるところまで落ちればあとは昇るだけ、それは可能性の獣。

同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
コメントなどはお気軽に。
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