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誕生日を祝って

えー、昨日5月31日に、私のブロともの中のある方がめでたく誕生日を迎えました。
すでに日を跨いで現在6月1日となっているのですが、遅ればせながらこの場を借りてお祝いをしたいと思います。
そんな訳で、お祝いとして即興で掌編を書きました。
こんなことを言うのはどうかと思いますが、これはかなりの気まぐれです。
ですので、今後同じようなことがあった時に書くどうかは、私の気まぐれ次第です。
それでも、お祝いしたい気持ちは本物ですので、その方には、これを喜んで受け取ってくださればと思います。

HAPPY BIRTHDAY!


「数学の宿題忘れたからノート見せてくんね?」
「はぁ? また忘れたの? いい加減宿題ぐらいしてきなよ。ただでさえ成績が倒産寸前の零細企業の売上並みなんだから」
「うっわ。酷過ぎじゃね? それが幼馴染に言うことかよ」
「幼馴染だから言ってんの。幼馴染が健気に心配してあげてるんだから感謝しろっつーの」
「はいはい。感謝してるよ。それはもう海より高く、山より深くな」
「形容詞が逆だから。……ったく。仕方ないなー。……はい、これ」
「おっ、サンクス! 今度アイスでも奢ってやるよ」
「ちゃんと返してよ?」
「もち。数学って最後の授業だったよな? だったら放課後に返すから。んじゃ、そういうことでー」
「あっ。ちょっと待って!」
「ん? なに?」
「…………ううん。やっぱ、何でもない」
「何だそれ。ま、いいけど」
 そう言ってあいつは自分の席に戻っていく。その後ろ姿を見送り、そのまま私は机にうな垂れた。
「あーまた言えなかったよぉ」
 半分泣きそうな声で机の上に後悔を吐き捨てる。頭が重い。まるで重力の手に押さえ付けられているようだ。
 今日何度もあいつに尋ねようと思い立ったけど、その度に私の心に巣食う弱虫が顔を出して邪魔をする。自分が悪いと分かっていても、もし無下にあしらわれたらどうしようかと、余計な心配ばかりが心を埋め尽くしてどうしても踏み切れない。
 今日は私の誕生日。
 一年間で私にとって最も特別な日。
 自分でも馬鹿みたいだと思うけど、期待しちゃってる私がいる。
 あいつから何か貰えるんじゃないかなー、なんて期待しちゃってる訳なんですよ! いいじゃん! 一年間で一番特別な日なんだから。プレゼントじゃなくてもいい。せめて、「おめでとう」の一言を言ってほしい。
 なのに、
 なーのーにー、あいつは何も言ってくれない。
 それどころか、それっぽい仕草を何も見せてくれない。もう昼休みだって言うのに、怠慢が過ぎるんじゃないの?
 だいたい、都合の良い時ばっかり「幼馴染、幼馴染」って、幼馴染なら誕生日の一つや二つ祝えっつーの!
「忘れてるってことは、ないよね?」
 ふと浮かんだ考えに身を凍らせる。胸が苦しい。心臓をプレスにかけられたような圧迫感が込み上げてくる。
 左の頬を机に付けるように首を曲げて、あいつの様子を窺ってみる。
 机の上にさっき私が渡したノートを広げて、自分のノートの上で必死にシャーペンを走らせている。あいつ、答えを丸写しにしているに違いない。だから、馬鹿なんだよ。バーカ、バーカ。
「……はぁ。虚しい」
 全身が無気力を極めている。私の身体がこのままドロドロに溶けて床に流れ落ちてしまう想像をして、軽く吐き気を催した。
 私はあいつのことをこんなにも意識しているというのに、あいつは全く応えてくれない。何だかさー、理不尽だよねー。
「よっ。なーに暗い顔してんの?」
 気付くと、私の席のすぐ側に隣のクラスの友達が立っていた。中学校からの付き合いで、普通の友達よりは親交を深めている。親友と呼び換えても差し支えのない、そんな存在。
「世界って意外と厳しいよなー、って悲観してた」
「そりゃまた、詩人なこって。でーもっ。今日は悲観なんてしてる場合じゃないでしょ?」
「へ?」
「はい、こーれっ」
 親友が背中の後ろで組んでいた両手を突き出してくる。その手には、可愛い柄の紙袋が握られていた。反射的に受け取って中身を確認してみると、そこにはクマのぬいぐるみが入っていた。
「え、え、これって、もしかして」
「ンフフ。もちろんプレゼントに決まってるでしょ。誕生日おめでとー!」
「ええぇ!? 本当に!? やだ、すっごく嬉しい! ありがとー」
 私たちのはしゃぎ声に興味を示して、クラス内の何人かがこちらに視線を向けてくるのを肌に感じる。
 親友が「わーわー」と言いながら拍手をしている最中、私は目だけを動かしてあいつの方を見遣る。この騒ぎに気付いて、私を見てくれてるんじゃないかと期待を抱いて。
 だけど、あいつは私を見てくれていなかった。先ほどと変わらず、宿題の答えを写すことに集中している。私の誕生日より宿題の方が大事なのかー! と叫びたくなる衝動を、唇を引き締めて抑えた。
 あの野郎、今度絶対にアイス百本奢らしてやる。
 
 
 本日最後の授業を終えるチャイムが鳴り、生徒たちを自由の世界に解放する放課後を迎える。
 部活に出る者たち、そそくさと帰路に着く者たちが教室から出ていく風景を眺めていると、あいつが近寄ってきた。
「いやー、マジ助かったよ。お前のおかげで先生に怒られずに済んだ。感謝感謝」
 本当に感謝しているのか怪しい軽薄な態度で、あいつが貸していたノートを手渡してくる。私はそれをぞんざいに受け取って、射抜くように睨み付ける。苛立ちを漏れなく込めて。
「な、なんだよ」
 私の怒りが伝わったのか、あいつが僅かに身じろぎする。
 受け取ったノートを鞄にしまいながら、ぶっきらぼうに言い放った。
「別に」
 言動とは裏腹に、明らかに不機嫌な表情を作って見せつけてやる。
 結局、あいつは何も言ってくれなかった。ずっと待ってたのに。
 もしかしたら、このノートを返す時に言ってくれるかもしれないと、最後の淡い期待に縋り付いてみたけど、無意味に終わってしまった。
 もうどうでもいいや。
 何もかも面倒臭い。
 そんな風に自暴自棄になってしまったから、今日何度も言おうとして言えなかった言葉を、あっさりと口に出すことが出来た。
「ねぇ。今日何日だか知ってる?」
「えーっと、三十一日だろ?」
「そ。五月三十一日。じゃあさぁ、今日何か特別なことがあるんじゃないの?」
「特別なこと?」
 あいつが腕を組んで「特別なこと、特別なこと」と独りごちながらぼやき始めた。必死に思い出そうとしているらしい。咄嗟に思いつかないところがまた腹立たしいけど、時間がかかってもいいから思い出してくれると良いと思った。
 これが本当に最後のチャンス。私は心の中で祈り続けた。
「あ、あれか。今日はあれだ。毎週聞いてたラジオ番組が最終回を迎える日だ」
「は、はいぃ?」
 あまりにも予想外な言葉に、椅子からずり落ちそうになった。
 あいつは「どうだ。当たりだろ?」と言わんばかりにふんぞり返って得意げな顔を作っている。それが私の琴線に触れた。
「この、この」
 頭に血が上るのが自分でも分かる。頬はきっと、灼熱のように真っ赤に燃えあがっていることだろう。
「お、おい。どした」
「この……バカーーーーー!!」
 周囲を顧みない叫び声を上げて、握っていた鞄をあいつの顔に叩き付けた。「ぐげっ」という情けない悲鳴を上げてあいつが床に倒れ伏す。勢いをそのままに、私は後ろを振り返ることなく教室を飛び出した。背後からあいつの声が聞こえた気がしたけど、そんなことに構っている余裕は私の中には存在していなかった。
 廊下を脱兎のごとく駆け、階段をひとっ飛びして、すれ違う人が驚いて道を空けるほどの速さで走り続けた。
 学校まで乗ってきた自転車を置き去りにして、私は校門を抜け出す。
 嫌だ嫌だ嫌だ。もう嫌だ!
 頬を熱いものが伝う。その熱が一層胸の痛みを増幅する。
 何度も転びそうになりながらも、走る足は止めなかった。
 このまま摩擦熱で消えてしまいたい! もうこれ以上あいつの顔を見たくない!
 嫌いだ嫌いだ嫌いだ。大っっっ嫌いだ!
 なのに、
何でこんなに胸が苦しいんだよぉ。
 
 
 どこをどう走ったのか全く覚えていない。
 気付くと、自宅の前に立っていた。
 私は乱暴に玄関を開け放ち、二階の自部屋を目指して階段を駆け上がった。
 部屋に入ってすぐに、勉強机の上に鞄を放り投げる。鞄が机の上に置いてあった私物にぶつかって、鈍い音や鋭い音が耳触りに鳴り響く。鞄の中から教科書やノートが数冊飛び出して床に落ちた。
 教科書類には一切気を払わずに、ベッドに飛び乗る。うつ伏せになって枕に顔を埋める。
 涙は走っている間にすっかり乾いてしまった。汗も出尽くして、身体の中には水分がほとんど存在していないんじゃないかという気さえしてくる。
 喉が乾いた。でも、もう動きたくない。
 メチャクチャ疲れた。身体の節々も痛いし。
 誕生日なのに。
 一年で最も特別な日なのに。
 散々だ。
 良いことなんて何も無かった。
 貰ったプレゼントは忘れちゃったし、教室で大声出しちゃったし、それに。
 不意にあいつの顔とあいつの言葉が思い出される。
「うぎゃー!」
 脳内に映し出されるイメージを掻き消すように、ベッドで飛び跳ねる。
 何してるんだろう私。無駄に足掻いて、無駄に傷付いて。一番馬鹿なのは私じゃん。
 だいたい最初から分かってた筈なんだ。あいつが今更幼馴染の誕生日なんて覚えてる筈なんてないって。なのに私が自分勝手に期待して、自分勝手に憤っている。
「馬っ鹿みたい!」
 何もかも忘れちゃおう。全て忘れて無かったことにしてしまえ。明日普段通りの顔で教室に行って、そしてあいつに謝ろう。今まで通り接して、そうすればいつもの日常を送れる。それでいいじゃんもう。
 出来れば、このまま眠りに落ちてそのまま一生目を覚ましたくない。だけどそれは叶わないから、ならばせめて記憶を消し去ってやる。
 記憶を消し去るように、身に纏うものを全て脱ぎ捨ててやりたい。
 後悔とか怒りとか、それに、この胸の痛みとか。
 息苦しくなって首を横に曲げる。雑多に散らかった床の上を眺めていると、ふと、今日あいつに貸したノートが開いた状態で落ちているのが目に映った。
「あれ?」
 何か不自然なものを目が捉えた気がする。
 今まで動くのを億劫に感じていたのが嘘のように、俊敏に起き上がった。
 瞼を擦って、今しがた視界に留まったものをもう一度確かめる。
「あれ? あれ?」
 転がるようにベッドから降り、芋虫のように床を這ってノートに手を伸ばす。ノートを掴み上げて開いていたページを凝視する。
「うそ……」
 そこに存在する筈の無いものが、私の目を捕縛して離さない。
 私が昨夜解いた数学の宿題の答えが書き連ねられたページの隅に、申し訳程度に余白がある。
 そこにはミミズが通ったような汚い字で、だけど確かな筆跡を残して、メッセージが綴られていた。
 ただ一言。『HAPPY BIRTHDAY』と。
 その瞬間、喉を押し広げるようにして、得体の知れないものがせり上がってきた。吐き出してみると、それは嗚咽だった。
「うぅ……うぅ……」
 ノートの上に一粒の水滴が落ちる。それを皮切りにして、涙がボタボタと止めどない雨となって、ノートに降り注いだ。
 すっかり乾いてしまったと思ったのに。
 私の中にはまだこんなにも熱い想いがあって。
 胸が張り裂けそうな痛みが再起するけど。
 今はそれがすごく心地よい。
「なん……だよ、不器用な……バカ、野郎!」
 それは私もか。
 あいつのことを想うと、胸が痛くなる。
 嬉しい筈なのに、痛い。
 何と言うべきか、本当に世界は理不尽だ。
 指で目元の涙を拭う。瞳に溜まった涙が光に反射して、視界がきらきら採光に満ち始める。そこに映るお祝いの文字は、一種の宝石のように輝いて見えた。
 ま、世界を憂うよりも前に、目下の悩みとしては。
 明日どんな顔で教室に行こうか、それに尽きる。
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Comments

他人の誕生日に、これほど胸が暖かくなるのは久しぶりです。
どなたかは存じ上げませんが、おめでとうございます。そしてこの掌編が読めたことに対して、ありがとうございます。

即興だからでしょうか。素朴な等身大の学生が目に浮かんできました。良かったです!!


あ、ちなみにaskは8月14日ですからwww
Posted at 2010.06.01 (19:55) by ask (URL) | [編集]
Re: タイトルなし
askさん、コメントありがとうございます。

askさんのように、その方も胸が暖かくなってくれればいいのですが。
ぜひ、askさんも祝ってあげてください。

掌編については、その方が誕生日だということを知って、思い浮かんだ話をそのまま書いたものなので、特別捻っている訳ではないですが、そのほうが気持ちが素直に伝わるかなと思ったので結果オーライです。
楽しんでいただけて良かったです。

8月14日ですか?
任してください! メモっておきます。
私には小説を書くことぐらいしかできませんが、それで良ければ全力で祝わせてもらいますよ。
Posted at 2010.06.01 (22:48) by つかボン (URL) | [編集]
いいですねぇ…。
一人で色々考えちゃって悶々とした気持ちが良く伝わってきます。
しかし幼馴染の祝い方がまた憎いw
こういう話は大好きです!


残念ながら私は既に今年の誕生日を終えてしまっているのですが、他の方の誕生日につかボンさんの小説を読めることを期待してます!


そう言えばつかボンさんも六月なんですよね、早いかもしれませんが、二十歳の誕生日おめでとうございます。
成人の誕生日ですし、大人っぽいことと言えばやっぱりお酒ですかね。ちょうどお酒が美味しい季節ですし。

Posted at 2010.06.01 (23:07) by si-ta (URL) | [編集]
誕生日、祝ってもらって本当にありがとうございます!
こんなビックリ驚き嬉しいプレゼントは初めてです!!
泣けてきます。
本気ですごい嬉しいです。
5月31日に生まれてきてよかったです。
チョコレートケーキをパクパク食べるより嬉しいです。

つかボンさんの誕生日にはこころに何か書いてもらいましょう!
こころなら何かしてくれるはずです!

灰理も何かしますよっ!
とっても嬉しかったのです。
Posted at 2010.06.01 (23:19) by 灰理 (URL) | [編集]
Re: タイトルなし
si-taさん、コメントありがとうございます。

読んでいただきありがとうございました。
今回は即興ということだったので、複雑な要素は一切取り払って、ストレートに綴ってみました。そちらの方が、気持ちが伝わりやすいので。

もう過ぎていたのですか。残念です。
私なんかで良ければ、si-taさんのためなら書いていたのですが。

>二十歳の誕生日おめでとうございます。
どうもありがとうございます!
二十歳なんて全く実感湧きませんが、成人することには変わりありませんからね。
友人にでもお酒奢ってもらおうかなw

灰里さん、コメントありがとうございます。

灰里さんに喜んでもらえて良かったです。
パッと頭に思い浮かんだものをそのまま文字にしただけなので、出来がどうかは分かりませんが、気持ちが伝わったみたいなので上々です。

歌雨さんや、灰里さんからも何かしてもらえるのですか?
それは楽しみですね。
ちなみに私の誕生日は6月5日です。
すいません、もうすぐですw
Posted at 2010.06.03 (03:28) by つかボン (URL) | [編集]
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Author:つかボン
前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
しかし落ちるところまで落ちればあとは昇るだけ、それは可能性の獣。

同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
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どうぞよろしくお願いします。

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