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誕生日を祝って2 上

先日6月7日に、誕生日を迎えた方がいましたので、またもや小説を書かせてもらいました。
いつも私のブログに訪問してくださる方で、時々コメントなども残してくださってお世話になっていますので、感謝の意も込めて書き上げました。
とっくに日にちは過ぎているのですが、そこは目を伏せて、ね?
書いている途中楽しくなりすぎて、当初の予定より随分と長くなってしまいましたので二編に分けました。御容赦していただけると嬉しいです。
勢いで書いたような内容ですが、その方が読んで、喜んでくださるといいなぁと思います。

HAPPY BIRTHDAY!


 何でこんなことになってしまったのか。
 今日一日の俺の行いを顧みても思い当たる節はない。
 運が悪かった、と結論付けるにはあまりに意識的で、あまりに無責任だ。俺の対応如何では、いかようにも事態は改善していたし、最善の策を選ぶことだって出来たのだから。
 それが出来なかったのは、その場の状況や雰囲気に流された所為もあるのだけど、やはり俺の浅はかさが祟ったからなのだろう。
 壁一面に広がる無数のストラップを眺めながらそんなことを考えていると、自然と溜息が漏れた。
「君が溜息を漏らすことで地球の二酸化炭素濃度が上昇しているという問題に、君が無関心なことをどうこう言うつもりはないけどね、せめて目の前の問題ぐらいは真剣に考えてくれないと困るというものだよ。特に私が」
 声の主を振り向く。
 尊大な喋り方の彼女、外吹囁香(そとぶきささやか)は、俺の隣で能面のような無表情を顔に貼り付かせて屹立している。その視線は俺に向けられておらず、目の前のストラップの束を見つめている。だけどさっきの俺とは違い、その瞳には真剣味を帯びた熱が籠っていた。
「そうは言うけどな聶香。明日は俺の誕生日だってのに、何故赤の他人の誕生日プレゼントなんぞを選ばなければならない? しかも俺と同じの誕生日の奴のを」
 そう。現在俺は、聶香の頼みでどこの誰だか知らない奴の誕生日プレゼント選びを手伝わせられている。場所は、俺も何度か訪れたことがある若者に人気の雑貨屋。一つのジャンルに絞るのではなく、幅広く取り扱っている店舗の方がインスピレーションも湧きやすいだろう、という理由から聶香が選択したのだ。
夏の入口に片足を突っ込んだ今日は、六月六日。
一足早く夏の気だるい暑さが日本には上陸しており、夏が嫌いな俺の心を苛み、更には目を背けたくなる現状が精神を蝕んでいく。
何を隠そう、翌日六月七日は俺の誕生日であり、聶香は知ってか知らずか、というか知っているのだが、そんな俺のおめでたい事実を丸っきり無視して、張本人である俺を付き添いに選ぶ辺り、聶香の意地の悪さが窺い知れる。
今の俺の気分は、傾きがマイナスの二次関数のグラフ並みに落ち込んでいるというのに、傍ら、聶香は必死に商品を凝視していたりする。
「変なことを言うじゃないか。君は確かに私の頼みを了承してくれたと記憶しているのだが?」
「『外吹聶香の頼みごとを引き受けなければ世界が破滅すると宣告されました。あなたならどうしますか?』なんて誘い方をされたら、誰だって怖くて引き受けるに決まってるだろ! 第一、聶香が言ったら冗談っぽく聞こえないんだよ!」
「む。失敬な。私は地球に降り立った戦闘民族ではないぞ」
「論点はそこじゃないんだよ。とにかく、もっとまともな誘い方をしてくれ」
「まともな誘い方をしていたら、君は了承してくれたのかい?」
「うぐっ。……それは、誘い方にもよるけど」
「まぁ、どちらでもいいさ。結局君はついてきてくれた。その事実があればそれでいい」
「っ……」
 ……またか。俺と聶香のやり取りはいつもこんな感じで、聶香に軍配が上がる。別に勝負している訳ではないのだけど、何と言うか、こう、ね。言い包められるってのは、悔しさに囲まれて「バーカ」と嘲笑われているかのような錯覚を引き起こす。あれだぞ? ちっぽけでも、俺の誇りに傷をつけたら爆発するんだぞ? 危険物取扱注意なんだぞ?
「つーかさぁ。明日は俺の誕生日でもあるんだけど、そこら辺は考慮されているのでしょうか?」
 商品の一つを手に取って、指の間で転がしていた聶香がこちらを振り向く。涼しい顔で、何を考えているのか判断しにくい無表情を浮かべて。
「んー? なんだ、祝ってほしいのかい?」
「べ、別にそういう訳じゃないけど……」
「フフ。考えておくよ」
 何を? とは聞かない。もう好きにしてほしかった。俺は今すぐにこの場から立ち去りたい。
「それにしても、私は一体何をプレゼントに選べば良いと思う?」
「俺に聞かれても困る」
「そんなことはないさ。この場合、第三者の意見というものは非常に参考になる。そのために君を誘ったのだから。……そうだね。君なら何を貰えたら嬉しいんだい?」
 それを、明日が誕生日の俺に聞くか普通。ここに来た理由が、『プレゼントを購入するため』から『俺に嫌がらせをするため』にシフトチェンジしているように感じるのは気のせいだろうか。
 顔を引きつらせながら恨みを込めた視線を送る俺にも、聶香はどこ吹く風。あまりにも凛としたその佇まいに、逆に気圧されそうになる。いっそのこと、唇の端を釣り上げて冷笑でも浴びせかけてくれれば、こちらもそれなりの対応が出来るのだけど、こうも無表情だと反応に困る。無言のプレッシャーほど怖いものはないということだ。
 ま、真剣さは伝わってくるんだけどね。
「俺だったら、やっぱり利便性があるものが良いな、うん。長く使えて、後に残るものが良い」
「心が籠っていれば何でもいい、なんて言わないところが君らしいね」
「夢が無いって言いたいんだろう?」
「現実主義者と言いたいんだ」同じだよそれ。
 クックッと、含むように聶香が笑う。聶香はたまにこんな風に笑顔を見せてくれる。聶香の笑いどころはよく分からない。その笑顔の意味を、俺はいまだに理解出来ていない。
「何にせよ参考にはなった。だとしたら、ストラップは候補から外すべきだね」
「その理由は?」
「脆いからさ。ストラップはすぐに切れる」
「そうかぁ」
「そうだとも。私が身に付けたストラップの類は、尽く千切れて無残な結末を迎えることになる。私はストラップというやつが苦手だよ。君の次に苦手だ」
「俺はストラップより苦手なのか!? 軽くショックだぞおい」
 楽しさを隠しきれない爛々と輝く聶香の瞳に見つめられ、俺は辟易とする。俺をいじめることに快感を覚え始めていないか、少し心配になる。
「このコーナーはもういい。あちらへ行こう。腕輪やネックレスが所狭しと並べられているじゃないか。オラ、ワクワクすっぞ」
 俺だったら本気で自殺を考えたくなるレベルのものまねを披露しながら、聶香が店内を移動していく。丁度近くで陳列作業に取り組んでいた店員が、若干引き気味なことにも構わず、悠然と闊歩していく。俺はその後ろを、身を屈めてついていった。
 ピンクや紫や緑といった派手な彩色のファンシーな小物類を見て、キャーキャー騒ぐ女子高中学生軍団の後ろを通り抜けて、聶香が示した場所に辿り着く。
 早速商品を鑑定し始めた聶香は、顎に人差し指を当てて「んー」と眉間に皺をよせて唸っている。無表情がデフォルトな聶香の、レアな一場面だ。
「どれが良いと思う?」
「あのさぁ、俺に聞いてばっかだけど、自分はどんなものをプレゼントしてあげたいんだ?」
「いや、ほら。私はこういうの初めてだから。勝手がいまいち分からないんだ」
「へ? 今まで友達にプレゼントしたこととかないの?」
「友達、いなかったから……」
「…………………………」
 否応なく錆びついた空気が流れる。
「ごめんなさい」の一言が出ないほど、場が凍りついた。
どうやら額を伝う水滴は、暑さの所為ではないらしい。
「そんな気まずそうな顔はよしてくれないかい? 別に気にしてなどいないから」
「ほ、本当でしょうか、外吹さん」
「ああ。友達がいなくたって不自由はなかったしね。寂しい想いをすることもあったけど、些末なことだよ」
 本当にどうでもいいことのように告げる聶香。その表情に憂いは一切なく、むしろ威張るように胸を逸らす聶香は、「それに」と言葉を繋ぐ。
「今は君がいるから」
「ぐはっ」
 こいつは。
 いつも胸の内の痛い部分を軽々しく突いてくる。本気か冗談かの境界線上で片足立ちするような言葉を投げかけて来て、俺の心を揺さぶる。側にいてもたないのは、身ではなく心の方である。
「私は不器用なんだ。他人と仲良くするための振舞い方を知らない。距離感が無いから、どの立ち位置で接すればいいのか分からない」
 距離感。
 それに関しては俺にも思うところはある。今ここで語るような、大層なことではないけど。
「……何でも器用にこなすイメージはあったけどな」
「そうでもない。あまりに不器用だから、体中の関節が本来なら曲るべきでない方向に曲ったりする」
「怖ーよっ! それもはや、器用を通り越してるよ! つーか人間超越してるよ!」
「そう取り乱すな。半分冗談だ」
「半分本当なのか!?」
 自然にお互いの表情が綻ぶ。
 無味乾燥なやり取り。だけど、俺たちの日常。
 くだらないけど、俺たちが平和な毎日の中にいることを実感させてくれる。
 それが、今の俺と聶香の距離なんだと思う。
 一見、理解し合っているように見えて、実際はお互いのことを何も知らない。溶け合っているようで、個別に分離した存在同士。
 混ぜ合わさることを恐れ、お互いの足元に自らラインを引いてしまった。それを越えないように、中身の無い会話で誤魔化して付かず離れずの距離感を保っている。
 でも今は、その距離が丁度良い。心地良い。
「なぁ、プレゼント渡す相手ってどんな奴なんだ? やっぱり相手の趣向も知っておかなきゃ駄目だろ」
「ふむ。変な奴……かな」
「仮にも誕生日を祝う相手を、『変』なんて称すんじゃねぇ。他に何かあるだろ」
「いや、ない」
 聶香が言葉の刃物で一文字に斬り捨てる。
 人格の構成要素が『変』のみしか存在しない人間を何と呼ぶか、聶香は知っているのだろうか? それは『変人』という生き物だ。
「変な奴だよ。側でずっと見続けてきた私が言うのだから間違いない」
「………………一応聞くけど、聶香はそいつのことが好きなの?」
「当然だとも」
 あぁそう。あぁ、そうですか。そりゃそうだよねー。
 いやいや。ある程度予想してたことだし。別にショックなんて受けてませんよ。
 淀みも迷いも無く言い切ったからって、それがどうした。意思が強くて素敵じゃないか。
 羞恥心をどこかに置き忘れた聶香は、人前で愛を告白したところでうろたえるようなタイプではない。
 しかし。しかし、だ。
 聶香が他人に恋慕を抱くという事実は、少なからず意外性を伴って俺の心を惑わせる。予想していたとはいえ、それはあくまで可能性の一つであり、実現はあり得ないと踏んでいたのだから。
 ……あー何だかなぁ。なかなかどうして腹の立つ話じゃないか。
どうして腹が立つのか、何に腹が立つのか、自分のことながら全く理解出来ないけど、何となく抵抗してみたくなった。期待とか優しさとか、聶香が俺に求める善意に。
「これが良い。俺はこれが欲しい」
 有無を言わせぬ圧力を言葉に乗せて、現状を押し潰しにかかる。
 藁で編んだ籠の中から目に付いた腕輪を一つ取り、聶香の目前に掲げる。
 今の俺にはこれぐらいが精一杯。聶香の反応を窺う。聶香は俺の提示した腕輪を指で摘まんで、見上げるように天井のスタンドライトに透かしてみせる。
「この輪の周りに付いている石はパワーストーンというものかな? ふむふむ。透き通ったエメラルドグリーンが綺麗だ。君にしては良いセンスをしているじゃないか。ならば決まりだな。これを購入するとしよう」
 そう言うと、一目散にレジに駆けようとする聶香を、俺は背後から「ちょっと待て!」と呼び止めた。聶香は回れ右の要領で振り返り、食事の許可を待つ飼犬のような疼く想いを、肩を震わすことで表現している。
「そんな簡単に決めちゃっていいのか? 大事なプレゼントなんだろ」
「何を言っている? だからこそだろう。君が選んでくれたのだ。これを採用しない手はないさ」
 ズキッと、胸の内で響く鈍い音を聞いた気がした。
 確かに俺はこの展開を望んだ。だけど、それは俺が欲しいと言ったものであって、想い人が所望してるものじゃないんだぞ! と声を張り上げて叫びたくなる。仕組んだ俺が言える立場でないことは火を見るよりも明らかなので、口を噤むしかないけど。
 根拠の無い信頼が、俺の良心を抉り取る。
 出所不明な優しさは、俺を黙らせるには充分だった。
 俺はただ、黙然と佇むしかなかった。
 
 
 きっかけはふとしたことだったと思う。
 俺と聶香の出会いの話だ。
 興味を持ったのは俺で、話しかけたのも俺だった。
 あれは確か、およそ一年前の、もう何回目かになる体育の授業中の時のことだった。
 その頃の聶香は、体育の授業には一切参加をせず、いつも隅の方で見学をしている女の子だった。それは今もほとんど改善されていないのだけど、とにかく、聶香がクラスメイトとボールを追いかける光景を目にした覚えが無かった俺は、身体でも弱いのだろうか、なんてありきたりな推測で自己解釈をしていた。
しかし、その時点で聶香が学校を休んだことは一度も無かったし、細身ではあるけど、肌もどちらかと言えば血色が良く、むしろ健康体に見えた。
 だから何か他に理由があるのだろうと、思考を巡らしたのが元々のきっかけだった。
 その日の授業はサッカーで、俺はコート外に転がったボールを追いかけるふりをして、聶香に近づいた。聶香はゴールの脇で膝を抱えて座っていて、何を見るでもなく虚ろな眼差しをグラウンドに向けていた。腰まで伸ばした艶のある黒髪から垣間見える横顔に、一瞬心を奪われそうになり、慌てて額にボールを打ち付けたり。自分でも何をしているのか分からなかった。その際、衝撃で記憶が回帰したのか、クラスの男子連中が聶香を深窓の令嬢と評していたことを思い出した。
 俺はその横顔に出来るだけ何気ない風を装って声をかけた。
「なんで授業に参加しないの?」
 聶香の肩が一瞬震え、少々の間を置いて静かに首を傾げた。傾げたまま俺を見ようと首を曲げたので、長髪が顔面に流れるように降りかかり、目だけがこちらを覗き見ていてちょっとしたホラーだった。俺を見咎めると髪を払う勢いで顔を振り上げ、全体像が露わになった。その時の聶香の顔は、今でも覚えている。
 無表情。
 しかし、無表情というにはあまりにも不自然。
 まるで、感情が何か知っていて、それが自分の中にあることも分かっているのに、肝心の感情の込め方が分からない人形のようだった。
 聶香の小さな唇から言葉が漏れた。
「私は三歩歩いたら何もかも忘れてしまう病気なんだ。名付けてニワトリ病。おいしそうだろう?」
 聶香ちゃんは奇々怪々な発言をする女の子でした。
突然の異次元発言に呆気に取られ、腕に抱えていたボールを落としかけた。聶香は呆然とする俺を値踏みするように見据え、「やっぱりね」と意味深な言葉を残して、再び視線を前方に向けようとした。その瞳から俺に対する興味が失われていくように生気が抜けて、虚ろに戻っていく様を見ていると、何故だか知らないけど無意識に声を発していた。
「鶏肉、嫌いなんだ」
 動きが止まった。俺の言葉が聶香の首の関節に釘を刺した。
 俺の顔を直視する聶香。
 もしかしたらその時が初めてだったのかもしれない。
 聶香の驚いた顔を見たのは。
「……なん、だって?」
「俺の話。鶏肉嫌いなんだよ。焼きにくいから」
 聶香の周りだけ時間の流れが停止したかのように、聶香は目を丸くしたまま微動だにしなかった。
 しかしそれも束の間で、固まったままだった相好は次第に崩れ、例の理由の不明な笑顔を形作った。やはりその時も、聶香が何故笑ったのかは分からない。
「私もだよ」
 そう呟いた聶香の瞳は、遊園地に初めて訪れた子供のように嬉しさを滲ませていた。
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Author:つかボン
前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
しかし落ちるところまで落ちればあとは昇るだけ、それは可能性の獣。

同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
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