Colorful Concrete
おもしろき ことなき世を おもしろく 高杉晋作
終わる世界のアルバム/杉井光
- Posted at 2010.10.26
- l一般書籍
トワ・ミカミ・テイルズ
まだライトノベルなんて言葉がそこまで世間一般に広まっていなかった時代に、昔読んでた小説が実はラノベだったなんてことはよくあること。キノがそのいい例だと思う。
私にとってのキノは『トワ・ミカミ・テイルズ』でした。ヴァルナ好きだったなー。
ところでトワミテ(ぱっと今考えた)ってどれほどの知名度なんだろう。なんせ8年も前の作品だからよく分からないんだよなー。
――あらすじ――
なんの前触れもなく人間が消滅し、その痕跡も、周囲の人々の記憶からも消え去ってしまう現象が頻発している世界。そこでは、いつの間にかクラスメイトが減っていき、葬式や遺書は存在せず、ビートルズが二人しかいないのが当たり前だった。そんな世界でぼくは例外的に消えた人間の記憶を保持することができた。そしてぼくは気がつく。人が消えていくばかりの世界の中、いなかったはずの女の子がいつのまにかクラスの一員として溶け込んでいることに―。
――感想――
はじめに言っておきます。
これ、大好きです。
期待のハードルを易々と越えられてしまった。こんなこと滅多にないのに。
いつもの杉井先生の小説が読みたいと思っている人はぜひ買うべき。買って損はしません。
ちなみに、この作品の略称はツイッターの良き知り合いのアイディアを拝借して『終わルバ』にしようと思います。
しようと思いますって、私に権限があるわけじゃないんですが、ぜひみなさんこの略称を流行らせましょう!
と、宣伝をしておいて。
雰囲気はさよピアに似てるかな。
雪のように、いつの間にか消えてしまってるような儚げな物語。ともすれば、本自体にまでその虚ろさが滲み出てると錯覚してしまうほど、なんだか淡いんですよね。
人が唐突に消えてしまう現象が頻発する終わる世界。消えた人に関わる痕跡は一切残らず、だれの記憶からもその人が存在した証が消えてしまう。
この設定がとにかく怖い。だれか身近な人が消えても、その人が存在した証は消えてしまうからだれも気づかず、故に悲しみも生まれない。それは死に対する悲しみが拭われた同じこと。だれかが死んで悲しむ人はいなくなってしまった。世界は幸せになったのか、不幸になったのか。
序盤は淡白な主人公マコトの日常を介して世界観の説明が成されているんだけど、ほとんど話に進展がないのにこの引力は異常。あっという間に物語に引き込まれてしまう。
中盤に差し掛かったところで物語は動き出す。クラスメイトの奈月との出会いがマコトの終わる世界に小さな変化をもたらします。この奈月がまた杉井先生の描きそうな女性キャラで、どこか真冬に似ている。つまり私のどストライク。
クラスメイトに、存在は忘れらていたのになぜか名前だけ覚えられている奈月。そんな奈月に疑問を感じたマコトは少しずつ奈月に惹かれていく。
今まで人との距離を保つ口実だけを探していたのに、いつからか奈月に近づく口実ばかりを考え始める。そんな自分を、マコトはらしくないと思いながらも次第に膨れ上がる気持ちは抑えられなくなっていく。
けれど奈月は人に言えない秘密を抱えていて、それが明かされていく過程がなんとも切ない。
この帯にある宣伝文が、まさにこの本の主題なんだよなぁ。
大切な人のことを、自分だけ一方的に憶えてるってどんな気持ちなんだろう。
いつか消えるとわかっているとき、人は大切な相手に憶えていてもらいたいんだろうか。それとも、忘れて、新しい道を歩いてもらいたいと思うのだろうか?
私だったらどうだろう。そんなことを考えると、あとは涙しか出てこなかった。
とはいえ、この本を読み切ったのが大学だったから素直に泣けなかったんだよなぁ。自分の部屋だったら絶対泣いてた。痛いんだよ、心が。ダッフルコートが広がって落ちるシーンは反則だよ。
相変わらず人の心の機微とか、人と人との距離感を描くのが上手い。杉井先生が杉井先生であるゆえんだと思う。
あと巧妙に張り巡らされた伏線。これも伏線だったのかと驚くことなんてザラ。本当に憧れの作家さんだなぁ。
読み終わったあとは、ただただあらゆる感情を呑み込んでくれる海が目の前に広がるだけ。そのまま沈んでいってしまえば楽なんだろうけど、海底に穿たれた錨の跡を砂が埋めてくれるように、いつかは傷も塞がってしまうんだろうなぁ。
けれど、こんな素敵な物語があったことはいつまでも憶えていたい。
とにかく、内容云々ではなく、ハードカバーで値段がはるからって購入を迷っている人はぜひ買うべき。それだけの価値がこの本には詰まっています。それどころかお釣り返ってきますから。
本当に、素晴らしい作品でした。
関連商品
剣の女王と烙印の仔Ⅵ (MF文庫J)
生徒会の九重 碧陽学園生徒会議事録9 (富士見ファンタジア文庫)
電撃文庫 MAGAZINE (マガジン) 2010年 11月号 [雑誌]
アクセル・ワールド 6 (電撃文庫 か 16-11)
ゴールデンタイム〈1〉春にしてブラックアウト (電撃文庫)
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まだライトノベルなんて言葉がそこまで世間一般に広まっていなかった時代に、昔読んでた小説が実はラノベだったなんてことはよくあること。キノがそのいい例だと思う。
私にとってのキノは『トワ・ミカミ・テイルズ』でした。ヴァルナ好きだったなー。
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なにもかもが消えてしまうはずはない。想いは空気にだって、土にだって、雨降りの中にだって含まれていて、そんなもののためだけにでも、ぼくらは涙を流す。
心が、涸れていなければ。
――あらすじ――
なんの前触れもなく人間が消滅し、その痕跡も、周囲の人々の記憶からも消え去ってしまう現象が頻発している世界。そこでは、いつの間にかクラスメイトが減っていき、葬式や遺書は存在せず、ビートルズが二人しかいないのが当たり前だった。そんな世界でぼくは例外的に消えた人間の記憶を保持することができた。そしてぼくは気がつく。人が消えていくばかりの世界の中、いなかったはずの女の子がいつのまにかクラスの一員として溶け込んでいることに―。
――感想――
はじめに言っておきます。
これ、大好きです。
期待のハードルを易々と越えられてしまった。こんなこと滅多にないのに。
いつもの杉井先生の小説が読みたいと思っている人はぜひ買うべき。買って損はしません。
ちなみに、この作品の略称はツイッターの良き知り合いのアイディアを拝借して『終わルバ』にしようと思います。
しようと思いますって、私に権限があるわけじゃないんですが、ぜひみなさんこの略称を流行らせましょう!
と、宣伝をしておいて。
雰囲気はさよピアに似てるかな。
雪のように、いつの間にか消えてしまってるような儚げな物語。ともすれば、本自体にまでその虚ろさが滲み出てると錯覚してしまうほど、なんだか淡いんですよね。
人が唐突に消えてしまう現象が頻発する終わる世界。消えた人に関わる痕跡は一切残らず、だれの記憶からもその人が存在した証が消えてしまう。
この設定がとにかく怖い。だれか身近な人が消えても、その人が存在した証は消えてしまうからだれも気づかず、故に悲しみも生まれない。それは死に対する悲しみが拭われた同じこと。だれかが死んで悲しむ人はいなくなってしまった。世界は幸せになったのか、不幸になったのか。
序盤は淡白な主人公マコトの日常を介して世界観の説明が成されているんだけど、ほとんど話に進展がないのにこの引力は異常。あっという間に物語に引き込まれてしまう。
中盤に差し掛かったところで物語は動き出す。クラスメイトの奈月との出会いがマコトの終わる世界に小さな変化をもたらします。この奈月がまた杉井先生の描きそうな女性キャラで、どこか真冬に似ている。つまり私のどストライク。
クラスメイトに、存在は忘れらていたのになぜか名前だけ覚えられている奈月。そんな奈月に疑問を感じたマコトは少しずつ奈月に惹かれていく。
今まで人との距離を保つ口実だけを探していたのに、いつからか奈月に近づく口実ばかりを考え始める。そんな自分を、マコトはらしくないと思いながらも次第に膨れ上がる気持ちは抑えられなくなっていく。
けれど奈月は人に言えない秘密を抱えていて、それが明かされていく過程がなんとも切ない。
本当に大切だった人、憶えていたいですか、それとも、忘れたいですか?
この帯にある宣伝文が、まさにこの本の主題なんだよなぁ。
大切な人のことを、自分だけ一方的に憶えてるってどんな気持ちなんだろう。
いつか消えるとわかっているとき、人は大切な相手に憶えていてもらいたいんだろうか。それとも、忘れて、新しい道を歩いてもらいたいと思うのだろうか?
私だったらどうだろう。そんなことを考えると、あとは涙しか出てこなかった。
とはいえ、この本を読み切ったのが大学だったから素直に泣けなかったんだよなぁ。自分の部屋だったら絶対泣いてた。痛いんだよ、心が。ダッフルコートが広がって落ちるシーンは反則だよ。
相変わらず人の心の機微とか、人と人との距離感を描くのが上手い。杉井先生が杉井先生であるゆえんだと思う。
あと巧妙に張り巡らされた伏線。これも伏線だったのかと驚くことなんてザラ。本当に憧れの作家さんだなぁ。
読み終わったあとは、ただただあらゆる感情を呑み込んでくれる海が目の前に広がるだけ。そのまま沈んでいってしまえば楽なんだろうけど、海底に穿たれた錨の跡を砂が埋めてくれるように、いつかは傷も塞がってしまうんだろうなぁ。
けれど、こんな素敵な物語があったことはいつまでも憶えていたい。
とにかく、内容云々ではなく、ハードカバーで値段がはるからって購入を迷っている人はぜひ買うべき。それだけの価値がこの本には詰まっています。それどころかお釣り返ってきますから。
本当に、素晴らしい作品でした。
関連商品
剣の女王と烙印の仔Ⅵ (MF文庫J)
生徒会の九重 碧陽学園生徒会議事録9 (富士見ファンタジア文庫)
電撃文庫 MAGAZINE (マガジン) 2010年 11月号 [雑誌]
アクセル・ワールド 6 (電撃文庫 か 16-11)
ゴールデンタイム〈1〉春にしてブラックアウト (電撃文庫)
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Comments
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- Posted at 2010.10.30 (15:00) by 夕凪 (URL) | [編集]
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Re: タイトルなし
夕凪さん、コメントありがとうございます。
おぉ、お買いになられましたか!
ハードカバーはたしかに財布に負担ですが、杉井作品が好きなら余りある価値があると思いますので、ぜひじっくり味わって読んでみてください。
神メモやさよピアと比べるとファンタジー寄りだとは思いますが、コテコテのファンタジー作品とは違い、ファンタジー設定を現実の世界に馴染ませてる印象ですね。現実の世界がこんなだったら、そこで生きる人々はなにを思い、どんな風に生きていくのか、ということに焦点を当てたお話だと思います。
いづれにせよ非常に情緒あふれる素晴らしい作品ですので、ハンカチをお忘れなく噛みしめてください。 - Posted at 2010.10.30 (15:30) by つかボン (URL) | [編集]
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結構クラス内で杉井さんが認知されてるようで、何人かに目を腫らしながら薦めてきました。
この主題、いつか直面するんだろうなぁ、と来たる人生の重要な分岐点を想像しながら読み始めました。
読み終わって、ふと表紙を見て、つかボンさんと同じように思いを巡らせてみたところで、涙腺が決壊しました。何も考えられずに座る他なかったです。
時間が経った今だから整理できますが、私は覚えていてほしいです。こうハッキリと自分の結論が述べられるほどに読み耽り、世界に沈んだ作品でもあります。
ダッフルコートはもうNGワード認定です。 - Posted at 2010.11.02 (22:09) by ask (URL) | [編集]
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Re: タイトルなし
askさん、コメントありがとうございます。
> あ、すいません。教室でおもっくそ泣いた人間ですw
さすがです。私もそこまで素直になれればもっと楽しめたと思うんですが。
杉井先生が認知されてる空間なんて羨ましいです。しかもみんな泣いてくれるぐらい好きなんて。
いつか訪れてもおかしくない世界というか、リアルなだけに空恐ろしいですよね。
自分がこの世界に放り込まれたと考えたらそれだけでゾッとしますが、私はどうでしょう。やはり、askさんと同じく憶えていてもらいたいかもしれません。いつかこの世から巣立つ日が来るとしても、大切な人の心の中で生き続けるならなんとかやっていけそうなんで。……というのは、ミスチルの歌詞の受け売りなんですがw
ダッフルコートは反則ですね。胸が引き絞られました。 - Posted at 2010.11.03 (22:30) by つかボン (URL) | [編集]