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空色パンデミック Short Stories/本田誠

苦をつく


先日、大学で餅つき大会なるイベントが催されていました。
参加すれば無料でつきたての餅を食べれるということで、私も友達を連れて参加しようと思ったのですが、当日会場に出向いてみるとすごい人の列。どうやら餅は大学生に人気のようでした。
寒いから友達がやめようと提言しました。ただ、私は餅も欲しかったのですが、どうしても杵と臼を使う餅つきを体験したかったのです。そんな体験は今までになかったので(あったかもしれませんが、記憶にはありません)。
が、しかし、しばらく眺めていると企画者側の年配のおじさんが餅をつき始めたんです。きっと学生一人一人につかせていては日が暮れると判断したんでしょうね。
その瞬間興が冷めたので私はその場を後にしました。

結局その後、時間を置いてもう一度行くと並ばずして餅をもらえたのですが、やはりもちは杵と臼でついてこそのものでしょう。
ところで餅つきは年末の29日に行うのが主流らしいですね。
お正月のイメージがありますが、よくよく思い出してみると私も毎年祖母の家で29日に餅つきをしていました。こちらは機械ですが。
どうやら二九から「苦をつく」という語呂合わせが生まれたことが起因しているみたいです。
ならば尚更杵と臼を使って餅つきをしておきたかったです。
機械じゃあ苦はつけませんからね。


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本田 誠 庭

エンターブレイン 2010-11-29
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「映画とかドラマだってほとんどフィクションだろ? みんなそれ見て感動してるだろう? 嘘だってわかってても感動してるだろう? 空想の発作だって同じことだよ」



――あらすじ――
(1)結衣、お下げ髪の純真文系少女になりきりロマンス編「空をあおげば」(2)結衣、再び発作を起こしロボットアニメのヒロインになりきりツンデレ編「閉じた世界の片隅で、私に驚くほしのおと」(3)結衣、三度発作を起こし最強女エージェントになりきり戦場バトル編「そして伝説は引き継がれる」(4)メアリー、自ら薬で幼児化して景にロ●コン疑惑発生のリベンジ編「バッド・メディスン」―“空想病”をめぐる悲しくも可笑しい日常のドタバタ悲喜劇集。


――感想――
今話題の空色パンデミックシリーズ初の短編集。

公式サイトで何度も見逃してしまっていた私としては、発売が非常に楽しみだった。
基本的に短編が好き、特に長編シリーズの短編は大好物。
発売当初、最初に立ち寄った書店で売り切れていて焦った記憶は今も新しい。
このラノ2011でランクインこそしなかったが、協力者投票第1位の貫禄は伊達じゃなかったということか。

ドラマCD化も決定され乗りに乗っている本シリーズ。
前巻で一区切りついたので、このタイミングでの短編集は十分予想できた。
そしてその内容はと言うと、端的に評価するととても面白かった。どうやらこの面白さは短編になっても変わらないようだ。
不満が残る部分もあったけれど、ひとまずは短編化成功と言えると思う。

ちなみに、空パンのドラマCDは現在公式サイトで試聴できます。気になる方は聴いてみてください。
試聴では市来さん演じる景と、日笠さん演じる結衣さんの声を聴くことができます。
予想以上にイメージと合致していて驚かされました。これは今基準を遥かに超えて期待が持てそうです。
空パンだけでなく、B.A.Dやココロコも試聴できます。こちらも素晴らしい出来で、スタッフの力の入れ具合がわかりますよ。
試聴ページはこちら↓
http://www.enterbrain.co.jp/fb/pc/02sp/02_1012dramacd/index.html

それでは内容の感想にいってみようかと。
短編集なので言うまでもなく章ごとに分けて。最近このパターン多いです。


空をあおげば

偶然見たアニメーション映画『空をあおげば』に感化され発作を起こして、いつものはつらつとした態度が嘘のようにおしとやかな文学少女になった結衣さん。
空想病を完結させるために景たちはその映画の内容を再現することに。

なのになぜか青井との弁当対決になったり。
空想病をいいことに、景を賭けて結衣さんと青井が張り合う姿が微笑ましかった。景からしたら堪ったもんじゃないだろうけど、青井の積極性は意外だった。
そういえば結衣さんと青井はあまり仲良く会話してるところが描かれないような。そもそも仲良いの?

森崎がまた名言を残しました。
上でも引用していますが。
「映画とかドラマだってほとんどフィクションだろ? みんなそれ見て感動してるだろう? 嘘だってわかってても感動してるだろう? 空想の発作だって同じことだよ」
どうしようもなく正論だ。驚くほど真っ当で、的を得た意見だ。
きっと景だとこの発想には至らない。森崎ならではの考え方だと思う。
キャラの良さを上手く書き分ける本田先生の才能が如実に顕れた事例だった。

そしてラストシーン。
ようやく完結かと思いきや、結衣さんが突然原作にない展開を要求してきて景はタジタジ。
そこはかとなく結衣さんの本心が垣間見えて、頬がユルユルになっちゃいました。
空想病罹患者に、空想完結とともに記憶を失う症状はないから覚えてるはずだけど。さーて、どうなのか。

ところでこの話、時系列的にはいつごろ?

閉じた世界の片隅で、私に響くほしのおと

SFもののアニメに感化された結衣さんがまたもや空想病を引き起こす。
というかこのアニメの元ネタ、モロ社会現象にまでなったあの名作アニメです。「アンタ、バカァ?」って、おいおい。

あらすじにはツンデレ編とあるが、果たしてそうだったかな。なりきってるキャラがキャラなだけに違わないとは言わないけど、ベタベタでもいいからもっと「らしさ」を出して欲しかった。せっかくの貴重な機会だからそういう結衣さんが見たかったなー。
でも、役者を演じる景と青井が親しくしてる姿を見て、あからさまに嫉妬する結衣さん可愛いです。
あれ? よくよく思い返してみると割とツンデレってた。

影響を受けた原作に自分なりの解釈を織り交ぜて、空想の完結をやたら難しくするのはもうご愛嬌。結衣さん、マジ結衣さん。
無駄に完結が面倒になった現状に頭を悩ませる景や青井や、そしてセーフガードの面々。
でもその中で、空想病罹患者に携わる人々の大変さ、大変でも決して投げ出さないすごさなどが垣間見えてきて、頑張ってるのは空想病罹患者だけじゃないんだと知れた。

ところで、本田先生はキスシーンを書くのが好きなのかな?
本書に限らず、今までにもキスシーン描写が多かった気がするけど。

そして伝説は引き継がれる

これも元ネタが即座に思いつきますね。
だれでも知っているような有名どころのパロディを題材に扱ってくれるから嬉しい。
でまぁ今回も、結衣さん空想病発症→景と愉快な仲間たち完結に尽力! な話です。
さすがにここまで同じパターンを繰り返されると飽きが来る。

と言うのも、私としては、もっと日常的な結衣さんの姿が見たかった。空想病もなにもないあるがままの結衣さんが。
だって、空想病を発症してるときの結衣さんって、基本的に物語の蚊帳の外じゃん。
このシリーズの面白さは、現実と空想の曖昧な境界線に自身がトリップしそうになる圧倒的な吸引力。
そしてもう一つ大事なのが、空想病完結に力を注ぐ景や、青井や、森崎や、セーフガードや研究所の人々の水面下の闘いにあると思う。
だから結衣さんが例え空想病を引き起こしている張本人だったとしても、物語の主軸にはなれない。
結衣さんが青井に比べて影が薄く感じるのは、こういった部分に原因があるんじゃないかと最近思い始めた。

しかし。
それらの事実を踏まえてなおかつ、私は敢えてこう言う。
この話が一番面白かった、と。

その理由として、空想病に携わる人々の在り方や想いの形を知ることができたのが大きい。
2、3章での青井のプロ意識や、木村さんのセーフガードとしての患者への向き合い方。結衣さんのお母さんの志や、そして真由さんの確固たる責任感と信念。
世界における空想病の立ち位置は非常に重要なもので、それを取り巻く人々の間にも意見の食い違いや齟齬が生じてしまうのは必至であり、致し方がない。
でも、だれもが『幻の第三次世界大戦前夜』の再来を避けたいと思っている。
今回明らかにされた空想病患者とテロ組織の関係性。
テロ行為に空想病患者を利用しようとする卑劣な輩もいれば、しっかりとした管理制度で以て患者を守ろうとする者もいる。
色んな人が物語上で動いている。
たかが空想のために、世界規模で動いている。
これが、新時代のセカイ系の在り方なんだと思う。
セカイ系だけに世界規模で設定が考えられている作品だけど、本当に綿密に作り込まれた良質な作品だと改めて実感できた。

とは言え、青井のラストの行動はちょっと納得できない。自分でプロだと言っておきながら、なぜわざわざややこしくするような真似を? 明らかに景絡みとしか思えない。私情挟みまくりでプロ意識はどこ行ったんだと、少し不満だった。
青井が掻き回してくれるおかげで、人間関係は面白くなってるんだけども。

てか、森崎は間違いなくキャストを目指した方がいい。

バッド・メディスン

最後にして最も短編らしい話。
ある日突然メアリーが仲西家訪問し、開発に成功した空想世界のパラドックスを一時的に治す新薬を景に手渡す。
その薬を青井と佳織さんに使うことを勧めるメアリーだが、絶対悪影響がないと言い切れない危険なものを使うわけにはいかないと、景はその使用を拒絶。ならばと立証のために自ら服用するメアリー。そして幼さを取り戻したメアリーに景が散々振り回される、そんなお話。

空想病が絡んでるとは言え、日常回とも呼べる緩めのお話。
唯一の日常回でなぜメアリー? と思わなくもない。前巻の登場で人気を博したのだろうか。私も嫌いではないし。
私が結衣さんに求めていたのはこういう緩さ。結衣さんのこんな日常の一面を、この短編で読みたかったのに。
でもこの話はこの話で面白かった。

この手の作品の主人公にはありがちなことだけど、幼さを取り戻しても性悪なメアリーに理不尽に変態に仕立て上げられた景。
王道なだけに飲み込みやすく、テンポも良かったのでつるっと読むことができた。
喉越し爽やかと言うか、引っかかる個所がなかったんだよね。
短いなりに、綺麗に愉快にまとめられていたと思う。

せっかく登場したんでメアリーについて考えてみる。
メアリーは言わば、今流行りの幼女キャラ。
ただ、前巻の初登場時から思っていたが、メアリーは流行りだからというそれだけの理由で生み出されたキャラでは絶対にないと思う。
他作品で最近よく見る手法としては、成人してるにも関わらず見た目は明らかに幼女、でも成人してるから問題ない、みたいな。私からしたら、あり得んだろとしか思えないんだけど。
でもこの作品の手にかかれば、その非現実さも軽く超越してしまう。
そもそもメアリーは年齢的にも幼いんだが、でもそこに空想病が介在しているから重みが伴っている。ただの幼女キャラとして流せない重みが。

これは行きすぎた考えかもしれないけど、メアリーは空想病を通して作者が読者に伝えたいテーマのようななにかの象徴なんじゃないだろうか。
自身も空想世界のパラドックスの被害者であるメアリー。
本来なら、年相応の生活を送る普通の少女だったのかもしれないのに、なんの因果か空想病などというの呪いに囚われて身を削るような研究を続ける毎日。例え本人が望まないのだとしても、もっと違う人生があったかもしれないと考えると、景が憤りを覚える気持ちもしみじみ共感できるなぁと。

メアリーはきっとこれからも、重要なキャラとして登場し続ける。
いつかそこに込められた本田先生のメッセージを受け取れたらいいなと思う。
そして青井や佳織さんだけでなく、そこにメアリーも含めて、いつかパラドックスから抜け出して本当の自分を取り戻す日が訪れることを祈りたい。

ところで、メアリーの開発した新薬。
これが今後の展開で重要なキーとなったら面白いなぁ。


総評。
やっぱり思い入れのある作品の感想は書いていて楽しい。
力と熱を込めすぎて、後で読み返すととんでもないことになってることなんてザラだけど、それでも今日の感想は割と綺麗にまとめられたのではないかと思う。どうでしょうか。

こんなところで触れるのもなんですが、みなさんからいただけるコメントはもちろん、拍手もみなさんが思っている以上に私の励ましとなっています。これからも見捨てずに温かい目で見守ってくれると嬉しいです。

話は逸れましたが。
短編という休憩を挟んで、やはり気になるのは本編の行き先。
いつかこのシリーズが名作と言われることを願いながら、じっと次巻の発売を待とうと思います。



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空色パンデミック Short Stories(ファミ通文庫)
空色パンデミック Short Stories (ファミ通文庫)(2010/11/29)本田 誠商品詳細を見る 第一部が終わってひと段落。 今回は短編集です。力を抜いて読むといいでしょう。 「空色パンデミック Short Stories」(本田誠著/ファミ通文庫)
Posted at 2011.02.16 (23:30) by 読書感想未満、駄文以上。

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Comments

こんばんは。
コレ読みたいんですが、近所の書店をどこ探しても無い!!
1~3巻は普通に置いてあるのに?!
Posted at 2010.12.23 (22:31) by naomatrix (URL) | [編集]
お久しぶりです~。

空色パンデミックはきになっているので読んでみたいと思います!
Posted at 2010.12.24 (14:45) by 灰理 (URL) | [編集]
あらら。企画者も、人数を限ればよかったのにですね。
もちをつかせてもらう企画なのに、年輩のおじさんがつくって――。
もちは二十九日につくものって、初めて知りました。
私は幼稚園の頃、杵でもちをついた思い出があるのですが。
もちをこねるおばあさんの手を、打ちかけちゃいましたね;

Posted at 2010.12.25 (12:57) by サクラ (URL) | [編集]
Re: タイトルなし
naomatrixさん、コメントありがとうございます。

私が最初買いに行った店でも売り切れてました。このラノ効果か、すごい売れ行きのようです。
見つかることを祈っています。

灰理さん、コメントありがとうございます。

本当にお久しぶりです。

私一押しの作品ですので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

サクラさん、コメントありがとうございます。

そうなんです。本末転倒ですよね。
ですが驚きの早さで大行列を成してましたから、人数制限があると逆に参加できなかったかもしれません。
私も初めて知りました。なにも知らずなすがままに祖母の家で餅をついてた自分が恥ずかしいです。
もしかしたら私も小さいころに杵と臼で餅をついたことがあるのかもしれませんが、覚えてないのならそれは体験したうちには含まれないと思うんです。だからこそ参加したかったのですが……。
てか、やんちゃな子供だったんですねw
Posted at 2010.12.25 (17:55) by つかボン (URL) | [編集]
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前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
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同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
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