Colorful Concrete
おもしろき ことなき世を おもしろく 高杉晋作
放課後探偵団/似鳥鶏・鵜林伸也・相沢沙呼・市井豊・梓崎優
- Posted at 2011.05.19
- l一般書籍
図書館探検
先日二日続けて別々の図書館に行ってきました。もちろん借りたい本があって足を運んだのですが、なぜか私の近所って図書館が密集してるので、色々な図書館の内装を知りたかったのです。
ちなみに探していた本はこれ↓
なぜこの本を探しているのかって、理由はわかる人にはわかると信じているのですが、わからない人が大半ですよね。深い理由はないのでお気になさらず。
結局見つからなかったのですが、館員さんに尋ねると大学近くの図書館(これまた近所)にあるらしいので今度立ち寄ってみようかと。どうせ訪れるつもりでしたしね。
いずれ感想を書ければいいなと思います。
ところで近所の図書館は文庫本の貯蔵量がやけに少ないのですが、図書館ってそういうものなんですかね。
うろ覚えですが地元の図書館はそうでもなかったような……。なにか理由があったり?
――あらすじ――
『理由あって冬に出る』の似鳥鶏、『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞した相沢沙呼、『叫びと祈り』が絶賛された第5回ミステリーズ!新人賞受賞の梓崎優、同賞佳作入選の「聴き屋」シリーズの市井豊、そして2011年の本格的デビューを前に本書で初めて作品を発表する鵜林伸也。ミステリ界の新たな潮流を予感させる新世代の気鋭五人が描く、学園探偵たちの活躍譚。
――感想――
表紙に惹かれて購入してみたら思わぬ収穫を得れました。
1980年代生まれの今をときめく5人の気鋭新人作家たちによる、学園を舞台にした書き下ろしミステリ・アンソロジー。
私は長編よりも短編のほうが好きな人間ですが、中でもアンソロジーは大大大好物。一冊で色々な味わいを持つ作風に出会えるなんて、こんなお得な話はない。アンソロジー最高。
今回は特に学園を舞台にしたミステリだったため、年代も近いということで楽しめる要素が盛りだくさん。どのお話も宝物のようにキラキラと光り輝いていました。
ミステリというジャンルは作者と読者の知恵比べゲームのようなもの。犯人は特定できるのにトリックがわからないなんてことはざら。「犯人はわかってるのにぃ!」なんて悔しがるのもまた一興。そんな風に、お互いにフェアプレーを遵守して読みながら謎解きをするという点で、他に比べて楽しみ方に+αがある特殊な位置づけのジャンルだと思う。
それもまた、作品を堪能できた要因かなと。
というわけで、以下、素敵な五編のお話を一つずつ紹介していこうと思います。
似鳥鶏『お届け先には不思議を添えて』
実は本作を購入した理由には、似鳥先生が気になっていたからというのもあります。ツイッター上でフォロワーさんからオススメされていた注目作家さんだったのです。
このお話は似鳥先生のデビュー作である『理由あって冬に出る』と、その続編の『さよならの次にくる<卒業式編>&<新学期編>』のさらにあとの時系列、言わばシリーズ最新作になるわけで、ということは私はシリーズ作品を途中から読んでしまったということになるのだけど、そんなことは些細な問題にもならない。シリーズを知らない人でも充分に楽しむことができる仕様になっていた。
でも、シリーズを最初から読んでいる人ならわかる面白味というのも実際にあるみたいだから、これから読んでいきたいと思う。実はもう購入済みだったり。
内容は、映像研究会が大量に保管していたVHSテープをDVD化しようという映研OBの提案を受けて、ダンボールに梱包したVHSテープをOBの知人宛てに送るのだけど、数日後、送ったダンボールの一つが中身を一部すり替えられて返ってきた、なんてお話。
成り行きで事件に関わっていた葉山くん(主人公)は、高校OBで元文芸部部長の伊神さんの力を借りて謎を解き明かそうとする。
どうも伊神さんという人物はこのシリーズの探偵役らしく、随分なキレ者である。そんな伊神さんと葉山くんが知恵を出し合って推理していく過程にとてもワクワクさせられた。というか、葉山くんと葉山くんの妹と伊神さんの三人で囲む食卓風景を見てると、なんか和むなあ。
消去法で犯人はわかってしまうのだけど、ダンボールの中身がすり替わったのは郵送する前で、でもすり替える機会なんてなかったのに、犯人は一体いつ、どんなトリックを使ってすり替えたんだ? という謎がどうしても解き明かせず、それがとても悔しくて。
でも面白かったなあ。謎解きもよかったけど、それ以外の部分も楽しめる。最後の解説にあったとおり、登場人物のすべてに等しく興味と愛情を注いだ良作だった。
ラスト一文の落とし方は秀抜。
鵜林伸也『ボールがない』
最初は百球あった野球ボールが練習後には一球なくなっていて、不機嫌だった監督の怒りを買ってしまい、見つかるまで探す羽目になった野球部員たち。けれどいくら捜してもたった一球のボールが見つからなくて……というタイトルどおりのお話。
「どこを探しても見つからない→ではなぜ見つからないのか?」といつもは体ばかり鍛えている野球部員たちが、視点を変えて論理的にボールを捜し出し始める流れに、自分も同じ立場だったらこう考えるかもと親身になれて面白かった。
ただ推理が外れてまた振り出しに戻るを何度か繰り返したりするから、その過程はちょっと退屈。
けれどラストは胸がほんのりと温かくなるような素敵な青春の仕掛けが待っていました。
相沢沙呼『恋のおまじないのチンク・ア・チンク』
こちらもシリーズ作品らしいです。
男子なら少なからずそわそわしてしまうバレンタイン。そんなバレンタイン当日に、みんなの荷物の中からチョコが抜き取られ教壇の上に積まれるという事件が起きる。一体だれが? なんのためにこんなことを? なんてお話。
これは面白かった。謎解きもよかったのだけど、並行して描かれる須川くんの恋愛模様がすごく甘酸っぱい。
クラスメイトの酉乃さんに恋する須川くんは、酉乃さんが真剣な面持ちでチョコレート売り場のチョコを眺めていたという情報を聞いて、もしかしたらなんて浮かれたり、でも妙な誤解を受けて落胆したり。さらには、酉乃さんが学校に内緒でマジシャン見習いとしてバイトしているレストラン・バーに、どう足掻いてもスペック的に敵わない男性が現れて気が気でなくなったりと、恋する高校男子の内面がこちらが恥ずかしくなるぐらいリアルに描かれている。
驚いたことに探偵役は酉乃さんで、ぎくしゃくしながらも謎解きを理由に会いに来た須川くんに、まるでマジックのように鮮やかに真相を解き明かしてしまう。
事件に込められた犯人の気持ちがまた切なくて、離れた場所にある数個の物体を一瞬で一つの場所に集めてしまう『チンク・ア・チンク』というマジックとの絡ませ方もよかった。まさに、恋のおまじないだったんだ。
須川くんと酉乃さんの関係性がいいなあ。デビュー作の『午前零時のサンドリヨン』をぜひとも読んでみたい。
市井豊『横槍ワイン』
映画同好会が撮影した作品の観賞会を開こうという話になり、メンバーの家に集まった一同。けれど鑑賞中、真っ暗な部屋の中で突然メンバーの一人がだれかにワインを浴びせかけられてしまった。「この中に犯人がいる!」という状況でだれが犯人かを突き止めていくお話。
面白い。今回の中で一番お気に入りの話だった。
限られた空間、座っていたときの並び順、グラスの中のお酒の残量など、限定された状況下で可能性のある犯人を絞っていくのだけど、動機がどうしてもわからず、さらにはだれがだれを好きだという恋愛面も介入してくるから、推理は混乱する一方。
困った主人公は推理小説を好み頭もキレる知人から知恵を借りて、謎は解けたと思いきや……。
些細なきっかけで本当の真相が見えてきて、すべての原因はちょっとした勘違いだった、なんてところがほろ苦い。キャラそれぞれの個性が巧みに活かされた謎と真相だった。
好きだからこそ、たとえ何気ない言葉でも思い詰めちゃうんだよなあ。
梓崎優『スプリング・ハズ・カム』
『ミステリーズ!』史上、最もハイレベルとされた第五回ミステリーズ!新人賞。その中でも絶賛の嵐だった梓崎先生の書き下ろしミステリーです。
この本を読むまで梓崎優先生を知らなかったのですが、デビュー作の『叫びと祈り』は名前だけなら知っていました。そこまで評価を得ていた作品だったのですね。
未来の自分宛てにメッセージを入れたタイムカプセル。それを掘り出すという目的で催された高校の同窓会で十五年のときを越えて開かれたメッセージ。そこには「十五年前の卒業式に放送室をジャックした犯人は私だ」という言葉が記されていた。
現在と過去を行き来しながら元放送委員の四人が十五年前の真相を追う、ちょっぴり切ないお話です。
噂に違わぬ非常に鮮やかな筆致だったと言わざるを得ない。
卒業式の日に、突如ジャックされた放送室。密室の状況下で消えた犯人。犯人は一体どこへ? 現在と過去を巧みに移動しながら描かれる事件の日の様子と、十五年越しの謎解き風景。それに重なる登場人物たちの内面の想い。
謎の真相こそ早い段階で気づいてしまうけれど、下地となった人間ドラマが丹念に作り込まれていて深い味わいがあった。十五年もあれば色々変わってしまう。でも根幹の部分は変わっていなくて、事件に込められた犯人の想いが十五年の歳月を経て届いた素敵なラストに、心が震えた。
ああ、これは『叫びと祈り』読まないとなあ。
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午前零時のサンドリヨン
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なぜこの本を探しているのかって、理由はわかる人にはわかると信じているのですが、わからない人が大半ですよね。深い理由はないのでお気になさらず。
結局見つからなかったのですが、館員さんに尋ねると大学近くの図書館(これまた近所)にあるらしいので今度立ち寄ってみようかと。どうせ訪れるつもりでしたしね。
いずれ感想を書ければいいなと思います。
ところで近所の図書館は文庫本の貯蔵量がやけに少ないのですが、図書館ってそういうものなんですかね。
うろ覚えですが地元の図書館はそうでもなかったような……。なにか理由があったり?
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「これは、ミステリーだ」
――あらすじ――
『理由あって冬に出る』の似鳥鶏、『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞した相沢沙呼、『叫びと祈り』が絶賛された第5回ミステリーズ!新人賞受賞の梓崎優、同賞佳作入選の「聴き屋」シリーズの市井豊、そして2011年の本格的デビューを前に本書で初めて作品を発表する鵜林伸也。ミステリ界の新たな潮流を予感させる新世代の気鋭五人が描く、学園探偵たちの活躍譚。
――感想――
表紙に惹かれて購入してみたら思わぬ収穫を得れました。
1980年代生まれの今をときめく5人の気鋭新人作家たちによる、学園を舞台にした書き下ろしミステリ・アンソロジー。
私は長編よりも短編のほうが好きな人間ですが、中でもアンソロジーは大大大好物。一冊で色々な味わいを持つ作風に出会えるなんて、こんなお得な話はない。アンソロジー最高。
今回は特に学園を舞台にしたミステリだったため、年代も近いということで楽しめる要素が盛りだくさん。どのお話も宝物のようにキラキラと光り輝いていました。
ミステリというジャンルは作者と読者の知恵比べゲームのようなもの。犯人は特定できるのにトリックがわからないなんてことはざら。「犯人はわかってるのにぃ!」なんて悔しがるのもまた一興。そんな風に、お互いにフェアプレーを遵守して読みながら謎解きをするという点で、他に比べて楽しみ方に+αがある特殊な位置づけのジャンルだと思う。
それもまた、作品を堪能できた要因かなと。
というわけで、以下、素敵な五編のお話を一つずつ紹介していこうと思います。
似鳥鶏『お届け先には不思議を添えて』
実は本作を購入した理由には、似鳥先生が気になっていたからというのもあります。ツイッター上でフォロワーさんからオススメされていた注目作家さんだったのです。
このお話は似鳥先生のデビュー作である『理由あって冬に出る』と、その続編の『さよならの次にくる<卒業式編>&<新学期編>』のさらにあとの時系列、言わばシリーズ最新作になるわけで、ということは私はシリーズ作品を途中から読んでしまったということになるのだけど、そんなことは些細な問題にもならない。シリーズを知らない人でも充分に楽しむことができる仕様になっていた。
でも、シリーズを最初から読んでいる人ならわかる面白味というのも実際にあるみたいだから、これから読んでいきたいと思う。実はもう購入済みだったり。
内容は、映像研究会が大量に保管していたVHSテープをDVD化しようという映研OBの提案を受けて、ダンボールに梱包したVHSテープをOBの知人宛てに送るのだけど、数日後、送ったダンボールの一つが中身を一部すり替えられて返ってきた、なんてお話。
成り行きで事件に関わっていた葉山くん(主人公)は、高校OBで元文芸部部長の伊神さんの力を借りて謎を解き明かそうとする。
どうも伊神さんという人物はこのシリーズの探偵役らしく、随分なキレ者である。そんな伊神さんと葉山くんが知恵を出し合って推理していく過程にとてもワクワクさせられた。というか、葉山くんと葉山くんの妹と伊神さんの三人で囲む食卓風景を見てると、なんか和むなあ。
消去法で犯人はわかってしまうのだけど、ダンボールの中身がすり替わったのは郵送する前で、でもすり替える機会なんてなかったのに、犯人は一体いつ、どんなトリックを使ってすり替えたんだ? という謎がどうしても解き明かせず、それがとても悔しくて。
でも面白かったなあ。謎解きもよかったけど、それ以外の部分も楽しめる。最後の解説にあったとおり、登場人物のすべてに等しく興味と愛情を注いだ良作だった。
ラスト一文の落とし方は秀抜。
鵜林伸也『ボールがない』
最初は百球あった野球ボールが練習後には一球なくなっていて、不機嫌だった監督の怒りを買ってしまい、見つかるまで探す羽目になった野球部員たち。けれどいくら捜してもたった一球のボールが見つからなくて……というタイトルどおりのお話。
「どこを探しても見つからない→ではなぜ見つからないのか?」といつもは体ばかり鍛えている野球部員たちが、視点を変えて論理的にボールを捜し出し始める流れに、自分も同じ立場だったらこう考えるかもと親身になれて面白かった。
ただ推理が外れてまた振り出しに戻るを何度か繰り返したりするから、その過程はちょっと退屈。
けれどラストは胸がほんのりと温かくなるような素敵な青春の仕掛けが待っていました。
相沢沙呼『恋のおまじないのチンク・ア・チンク』
こちらもシリーズ作品らしいです。
男子なら少なからずそわそわしてしまうバレンタイン。そんなバレンタイン当日に、みんなの荷物の中からチョコが抜き取られ教壇の上に積まれるという事件が起きる。一体だれが? なんのためにこんなことを? なんてお話。
これは面白かった。謎解きもよかったのだけど、並行して描かれる須川くんの恋愛模様がすごく甘酸っぱい。
クラスメイトの酉乃さんに恋する須川くんは、酉乃さんが真剣な面持ちでチョコレート売り場のチョコを眺めていたという情報を聞いて、もしかしたらなんて浮かれたり、でも妙な誤解を受けて落胆したり。さらには、酉乃さんが学校に内緒でマジシャン見習いとしてバイトしているレストラン・バーに、どう足掻いてもスペック的に敵わない男性が現れて気が気でなくなったりと、恋する高校男子の内面がこちらが恥ずかしくなるぐらいリアルに描かれている。
驚いたことに探偵役は酉乃さんで、ぎくしゃくしながらも謎解きを理由に会いに来た須川くんに、まるでマジックのように鮮やかに真相を解き明かしてしまう。
事件に込められた犯人の気持ちがまた切なくて、離れた場所にある数個の物体を一瞬で一つの場所に集めてしまう『チンク・ア・チンク』というマジックとの絡ませ方もよかった。まさに、恋のおまじないだったんだ。
須川くんと酉乃さんの関係性がいいなあ。デビュー作の『午前零時のサンドリヨン』をぜひとも読んでみたい。
市井豊『横槍ワイン』
映画同好会が撮影した作品の観賞会を開こうという話になり、メンバーの家に集まった一同。けれど鑑賞中、真っ暗な部屋の中で突然メンバーの一人がだれかにワインを浴びせかけられてしまった。「この中に犯人がいる!」という状況でだれが犯人かを突き止めていくお話。
面白い。今回の中で一番お気に入りの話だった。
限られた空間、座っていたときの並び順、グラスの中のお酒の残量など、限定された状況下で可能性のある犯人を絞っていくのだけど、動機がどうしてもわからず、さらにはだれがだれを好きだという恋愛面も介入してくるから、推理は混乱する一方。
困った主人公は推理小説を好み頭もキレる知人から知恵を借りて、謎は解けたと思いきや……。
些細なきっかけで本当の真相が見えてきて、すべての原因はちょっとした勘違いだった、なんてところがほろ苦い。キャラそれぞれの個性が巧みに活かされた謎と真相だった。
好きだからこそ、たとえ何気ない言葉でも思い詰めちゃうんだよなあ。
梓崎優『スプリング・ハズ・カム』
『ミステリーズ!』史上、最もハイレベルとされた第五回ミステリーズ!新人賞。その中でも絶賛の嵐だった梓崎先生の書き下ろしミステリーです。
この本を読むまで梓崎優先生を知らなかったのですが、デビュー作の『叫びと祈り』は名前だけなら知っていました。そこまで評価を得ていた作品だったのですね。
未来の自分宛てにメッセージを入れたタイムカプセル。それを掘り出すという目的で催された高校の同窓会で十五年のときを越えて開かれたメッセージ。そこには「十五年前の卒業式に放送室をジャックした犯人は私だ」という言葉が記されていた。
現在と過去を行き来しながら元放送委員の四人が十五年前の真相を追う、ちょっぴり切ないお話です。
噂に違わぬ非常に鮮やかな筆致だったと言わざるを得ない。
卒業式の日に、突如ジャックされた放送室。密室の状況下で消えた犯人。犯人は一体どこへ? 現在と過去を巧みに移動しながら描かれる事件の日の様子と、十五年越しの謎解き風景。それに重なる登場人物たちの内面の想い。
謎の真相こそ早い段階で気づいてしまうけれど、下地となった人間ドラマが丹念に作り込まれていて深い味わいがあった。十五年もあれば色々変わってしまう。でも根幹の部分は変わっていなくて、事件に込められた犯人の想いが十五年の歳月を経て届いた素敵なラストに、心が震えた。
ああ、これは『叫びと祈り』読まないとなあ。
関連商品
午前零時のサンドリヨン
理由(わけ)あって冬に出る (創元推理文庫)
退出ゲーム (角川文庫)
折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)
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Comments
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調べて分かったんですが、映画化するんですね。
奇遇にも私も源氏物語が読みたくて、アマゾンや図書館で探していたところなのですよ。
まあ、読みたい本がありすぎて、本当に手がつくかは疑問ですが。
確かに素敵な表紙ですね。
絵師さんは新しく売り出した人でしょうか。
けれども、中身もヒットしていたみたいですね。
こういうアンソロがきっかけで良い作家さんと出会えるのは、素晴らしいことだと思います。 - Posted at 2011.05.19 (17:18) by サクラ (URL) | [編集]
-
Re: サクラさんへ
コメントありがとうございます。
実は映画化が探してた理由でもあります。それだけではないんですけど、映画化がきっかけですね。
本当は与謝野晶子さんの翻訳版を読みたいのですけど、まずはブログで紹介した本を入門書として、さわりだけ知っておこうかと思っています。
素敵ですよね。装画を担当したのはシライシユウコさんという方ですが、おそらく近年活躍し始めたイラストレーターさんだと思います。
購入してから読む読むと言いつつ積まれたままで、先日ようやく読めたのですが、もっと早くに読んでおけばと苦虫を噛み潰したくなるぐらいには満足できる一冊でした。
アンソロのよさはやっぱり、色んな作家さんに出会えることですよね。これから追っていきたい作家さんが何人も見つかりましたよ。 - Posted at 2011.05.20 (02:00) by つかボン (URL) | [編集]