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翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件/麻耶雄嵩

常識の檻


とある知り合いの方のブログで「常識に縛られる」ことについて話題が挙げられていて、私にとってもそれは他人事ではなかったので少し考えてみました。

以前から悩んでいたのですが、私は創作において常識に縛られる傾向が強いみたいです。
私の場合だと、どうしても現実的、常識的なものの捉え方が拭えなくて、設定段階で躓くこともあります。作品に感銘を受けるたびに「どうしてこんなに縦横無尽に物語を書けるのだろうか」と自分に問い、そして「もっと柔軟な考え方を……」といつも言い聞かせるのですが、いざ書くとなると思考はぶつ切り。ブラックアウトしてしまいます。
ただでさえラノベ作家を目指すなら突飛性が必要なのに……。

自分で言うのもなんですが、今まで私は結構刺激的な体験をしてきたつもりです。ただそれが、大学に入ってからだったのでちょっと遅すぎたのかなと、最近よく思います。
どんなにぶっ飛んだ経験に身を投じていても、理性が抜け切れていなかったというか、あるがままに受け止めれてなかったような気がします。
逆に感受性が豊かだった、一般的に「青春」と呼べる時期は無難にすごしてた印象が強いことに気づきました。

今の経験だってまったく無駄になるなんてことはないでしょうし、「遅く」とも「遅すぎる」ということもないでしょう。でもどこかで、無駄に築かれた「常識」という檻が私の心にブレーキをかけていることは間違いなさそうです。

うーん、なんだかミスチルの『名もなき詩』を思い出すなあ。






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麻耶 雄嵩

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「残酷ですね。覚悟している者をいちばん後まで残すというのは。人は寿命より短く生きることが出来るから幸せなのに」



――あらすじ――
首なし死体、密室、蘇る死者、見立て殺人……。京都近郊に建つヨーロッパ中世の古城と見粉うばかりの館・蒼鴉城を「私」が訪れた時、惨劇はすでに始まっていた。2人の名探偵の火花散る対決の行方は。そして迎える壮絶な結末。島田荘司、綾辻行人、法月綸太郎、三氏の圧倒的賛辞を受けた著者のデビュー作。


――感想――
周囲で話題だった麻耶雄嵩先生のデビュー作『翼ある闇』読ませてもらいました。
これはお面白い。さすが『新本格』の大御所三氏に絶賛された作品だけはある。
濃密なミステリは久しぶりだったので思う存分堪能できた。

古城、密室、首なし死体、双子、見立て殺人、名探偵にワトソンと、「いかにも」な設定のオンパレード。
どこか挑戦的な犯人によってもたらされる難事件に、挑むのは名探偵木更津。推理小説家の『私』の視点から、狂気的かつ猟奇的な事件の全貌、嘲笑うかのごとく犯行を繰り返す犯人、その影を追う名探偵の姿が描かれている。

それだけでは数ある名作に埋もれてしまうだけだが、本書の面白いところは探偵が二人登場すること。
名探偵の木更津。そして『銘』探偵のメルカトル鮎。
物腰柔らかで飄々としているが、ただ者ではない泰然とした雰囲気をまとう木更津。
自尊心が高く大胆不敵だが、それが実力の裏づけだとわかるメルカトル鮎。
ここで気になるのがタイトルの副題。
デビュー作なのにどうして「最後」? と思うかもしれないけど、それは読めばわかる。一応、メルカトルの登場する作品はシリーズとなって後に出版されているらしい。つまり、作家麻耶雄嵩にとっては本書が「原点」であり、銘探偵メルカトル鮎にとっては「終点」となっていることも面白味の一つである。

メルカトルの登場は物語の後半からだけど、二人の熾烈な推理合戦が本書の見どころと言えるだろう。
某眼鏡の少年探偵ではないけど、真実は確かに一つなんだろう。けれど一つの真実に二人の探偵+αによって幾通りもの推理が立てられるのだから面白い。何度も裏返る真実に息を呑んだ。
話題になるのも納得のしたたかさというか。意地の悪さが褒め言葉になるような作風だなと思った。

その推理の中には天文学的領域にまで足を踏み入れた奇跡のような解釈もあって、「あり得ない」と思うよりもその領域に辿り着いた探偵の優れた知能と閃きに敬服する気持ちが先行する。荒唐無稽と思わせるのではなく、納得させるだけの人物像であったことも一つの要因かもしれない。
そういう意味では、キャラ立てという面でも評価できる作品だったと思う。

一つだけ残念だったのは、戯曲、神話、文学の知識をことあるごとにひけらかすペダントリーな一面があったことかな。最初は自分の無知を恥じていたけど、いくらなんでもこれだけのネタを一般人が理解できるはずがない。文章は非常に読みやすいのに、「?」をたびたび頭に浮かばされてはリズムが崩れてしまう。そのあたりに少しだけ辟易した。

しかし最後まで読みとおして全体的な評価を下すなら、文句なしの傑作。
人は選ぶかもしれないが、これを21歳という若さで書き上げたことを考慮すると平伏するしかない。才能とは本当に恐ろしいものだね。


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Comments

うーん、常識に縛られるって重要な問題ですよねえ。
まあ、様式美っていうのも大切ですが。
私は、逆に様式美を上手く取り入れなくて困ってるんですが。
突然の思い付きをメモったりするところから初めてはどうでしょうか。
考えれば考えるほど硬直化したりするものですから。

Posted at 2011.06.18 (19:08) by サクラ (URL) | [編集]
こんばんは。
常識に囚われる・・・う~ん、作家を志す身としては、切実な問題ですよね。この壁をどう突破していくかというのが作家の永遠のテーマのような気がする。

私は「魔法少女もの」が大好物で、いろんな作品を個人的に研究したりしてるわけですが、こういう問題を考える時「ハートキャッチプリキュア」と「パンティ&ストッキング」を比較してみることにしています。
一見真逆の作品のように見えますが、
「主役が女の子二人」「変身して敵と戦う」「最終奥義で巨大な女性がトドメを刺す」など、共通項が結構多い二作品。
「パンスト」が「プリキュア」を念頭に置いて作られたかどうかはわかりませんが、少なくとも「プリキュア」のイメージに引きずられていると、「主役二人がビッチ」「下ネタ連発」「エロい変身バンク」「武器が銃器・刀」なんてアイデアはまず出ないでしょう。
でもよく考えるとこれらのアイディアは「プリキュアがまずやらない」と思われることばかりですよね。
だから「王道」と呼ばれている作品の要素をピックアップして、その対極にある要素を考えて積み重ねていけば、何か新しい物が生まれそうな気がするんですよね。
「構造は変わってないじゃん」って言われたらそれまでですが・・・。

『新本格』のミステリーですか・・・。
新本格のミステリー作家に入るのかどうか分かりませんが、最近折原一氏の作品を何冊か読んでます。
折原氏は日本における「叙述ミステリー」の第一人者。
「叙述トリック」とは言葉で説明するのは難しいんですが、「サクラコ・アトミカ」の二つのシーンが繋がるところとか、「僕の小規模な奇跡」の後半の美術館のシーンのあの仕掛けと言ったら分かるでしょうか・・・。(あとは「化物語」で八九寺が幽霊だとガハラさんの言葉で分かるシーンとか)
最近この「嘘をつかないで読者を騙す」テクニックをなんとか習得したくて、いろいろ研究中。
読書メーターの積読本にもその手の作品が増えましたね。
ちなみに今まで読んだ叙述トリックを駆使した作品で一番完成度が高いと思ったのは、曽根圭介氏の短編『熱帯夜』(角川ホラー文庫「熱帯夜」所収)です。
もうお見事、としか言いようがないです。何の知識も要らず、スマートに騙されます。
読んだあと、私に「こういうのを書いてみたい」と本気で思わせてくれた作品。ここまで見事に騙されると気持ちいいですね。
70ページに満たない作品ですが、超オススメです!
Posted at 2011.06.18 (23:56) by naomatrix (URL) | [編集]
Re: サクラさんへ
コメントありがとうございます。

歴史が深ければ深い文化ほど定型あるいは様式美というものは存在するんでしょうが、そこから抜け出すオリジナリティも求められているというのが、この世界の酷なところですよね。
一応アイディアをメモる作業は身につけているのですが、いざ物語しようとしたとき、どうしても考えの幅が狭まってしまうんです。
問題と向き合う上で色々と対応策を考えるのがこれからの課題になりそうです。
Posted at 2011.06.19 (03:15) by つかボン (URL) | [編集]
Re: naomatrixさんへ
コメントありがとうございます。

決して連想されない二つのものを組み合わせて意外性を出すというのは、アイディア創出法でも重要な発想方法だと思います。それを実践したのがいわゆるパンストですね。
私もアイディアを生み出す段階では使っている方法ですが、私が常識に捉われるというのはアイディアを物語にしようとする段階のことなんです。いくらアイディアが魅力的でも(私のアイディアが魅力的かはさておき)、物語がどうにも堅くなってしまうというか、結局「お利口」な作品に留まってしまうというのが悩みなんです。
作家志望、そして実際に作家になれたあとでも、これは一生向き合っていかないといけない問題なんでしょうね。

丁寧に説明していただいたところ申し訳ないですが、さすがに「叙述トリック」ぐらいは理解していますよ(汗)。 むしろ私は、ラノベに本格的にハマる1年前まではそういう作品を好んで読んでましたから。
しかし折原一さんが第一人者だったのですか……。名前ぐらいは知っていましたがそんな偉大な方だったとは。
叙述トリックは本当に上手い人が駆使すると驚くほど魅力的に映りますよね。研究したくなる気持ちはわかります。私も実際に研究しながら試してはいるのですが、一朝一夕でどうにかなるものではないので様にはなりません。でもいつか、自在に操れるような作家になることが遠い目標ですかね。
参考がてら『熱帯夜』も図書館かどこかで見つけて手にとってみようかと思います。70Pぐらいならすぐに読めそうですから。
私がつい最近読んだ円居挽先生の『丸太町ルヴォワール』も感動的な叙述トリックが組み込まれていました。あまりに鮮やかすぎて賛美の言葉もすら出てこないほど呆気に取られてしまいます。おかげで最近は円居先生にベタ惚れです。
こちらもオススメですよ。
Posted at 2011.06.19 (03:39) by つかボン (URL) | [編集]
お利口な作品になる、というのは私も悩みですが、こればっかりは作品を数多く読んでどうにかするしか・・・。

いらぬ説明失礼いたしました(笑)。
折原氏は40作を超える作品中、叙述トリックを使った作品が8~9割を占めていますからね。さすが第一人者は伊達じゃないです。
「叙述トリックが使われている」というだけで、ほとんどネタバレだというのに、再読に耐えるというのはビックリ。まだ全部読んだわけではないのですが、レビューを見ると「倒錯のロンド」「倒錯の死角」「沈黙の教室」「異人たちの館」が評価が高そうです。

曽根圭介氏というと、日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した『鼻』(角川ホラー文庫『鼻』所収)もオススメ。
こっちも叙述トリックを駆使した作品ですが、
SFとノワールという異なるストーリーが驚きの交錯を果たす展開がとっても好み。
先の『熱帯夜』も日本推理作家協会賞短編賞を受賞しており、クオリティの高さが伺えます。

前回に引き続き、好き勝手書いてスイマセン・・・。
Posted at 2011.06.19 (16:31) by naomatrix (URL) | [編集]
Re: naomatrixさんへ
コメントありがとうございます。

読書数をこなすだけではなく、考え方一つでも変わると思うんです。だからこれからは思考力のトレーニングをしようと思います。読書自体はどうせやめられませんし。

折原さんほどになると、叙述トリックが使われていることが大前提になるんでしょうね。それでも多くの評価を得ているということは、それだけの魅力があるのでしょう。
それにしてもタイトルが一昔前の洋画の日本語タイトルみたいなものばかりですねw

ああ、『鼻』はその曽根圭介さんという方が書いた作品だったのですか。作者の名前までは知りませんでした。
どうも短編を得意としている方なんですかね?
なかなか面白そうな作品が多いです。
Posted at 2011.06.19 (23:55) by つかボン (URL) | [編集]
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Author:つかボン
前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
しかし落ちるところまで落ちればあとは昇るだけ、それは可能性の獣。

同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
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どうぞよろしくお願いします。

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