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セイジャの式日/柴村仁

僕にはもう母の意図を読む気がありません。


先日の、実家から届いた仕送りの中に女性用の下着の通販カタログが混入されていた件についてですが、母に電話で尋ねてみたところ、男性用と間違えたと大笑いしておりました。
私はそんな母に「ドジだなぁ、ははは」と爽やかな言葉を返しました。

……いや、男性用も必要ないんだよ、お母さん?


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柴村 仁

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「絵を一枚仕上げるたびに、絵にサインを入れるたびに、もうやめよう、これで最後にしようって、考える」
「じゃあ、なんで、やめない?」
「書いてても辛いけど、書かないともっと辛いから」
「…………」
「もう、そういう生き物なんですよ、俺は」



――あらすじ――
しんどいですよ、絵を描くのは。絵を一枚仕上げるたびに、絵にサインを入れるたびに、もうやめよう、これで最後にしようって、考える――それでも私は、あなたのために絵を描こう。
かつて彼女と過ごした美術室に、彼は一人で戻ってきた。そこでは、長い髪の女生徒の幽霊が出るという噂が語られていた。
『プシュケの涙』『ハイドラの告白』に続く、不器用な人たちの、不格好な恋と旅立ちの物語。


――感想――
『プシュケの涙』、『ハイドラの告白』のバトンを受け、本作『セイジャの式日』にて不器用な人々の、不格好な恋と旅立ちの物語堂々の完結。

あぁ、遂に完結してしまった……
最後まで取っておいた好物を食べ終わってしまったような虚無感を感じるけど、不思議と不快な気持ちにはならない。むしろ清々しい。
今はただ、体に広がる爽やかな余韻に浸っていたい。

この作品の良さをどんな言葉で書き表そうかと悩みに悩んだのだけど、やはり「素晴らしい」の一言がしっくりくる。
何百という言葉で取り繕うよりも、圧倒的に作品の本質は穿っているのではなかろうか。

今回もお馴染みの二編構成。
前半は前作『ハイドラの告白』で語り手となってくれたハルが、またもや語り手となって物語は進む。
『ハイドラの告白』から数日後の話で、今回はしっかりと彼方と絡んでいる。ハル視点で描かれる彼方は新鮮味を帯びていて、宛との若干の違いが面白い。
ミステリー感覚での謎解きにも注目だけど、真に注目すべきは事件の裏で複雑に交錯する人の心かなと思う。
特に犀の心情には背筋が凍った。
犀の言葉に動揺してしまう由良にも、まだ過去を乗り越えれてないんだなと一抹の寂しさを感じた。

後半は前半からさらに数年後の話。
教育実習生として自身が卒業した高校に戻ってきた由良を、日野という名前の生徒の視点から描いている。
表では、日野と絹川というどこか吉野彼方を思わせる少女の触れ合いを描き、裏では由良の成長物語を描いている。
前半も楽しめたけど、やはり本気は後半のようだ。
内容量的には100Pほどで、前半の二分の一しかないけど、その少ないスペースの中に『プシュケの涙』から始まった由良の物語の全てを詰め込んでいる。
かつての美術室に戻ってきた由良は何を想うのか。やはり彼女のことなのだろうか。由良の目には何が見えているのだろうか。
第三者視点ではそれは分からない。だけど、それがいい。
多くを語らず、読者の想像力を掻きたてることで、この作品は奥深さを極めているのだと思う。
人生に行き詰っていた由良が、最後に贈られた花束で救われたのが良かった。
最後の由良のイラストと、

そうだよ。笑って。笑っていて。
あなたが笑っているなら、それで、文句ない。


この言葉が全てを物語っている。あのイラストは本当に反則だ。

全体を通して思うことは、『ハイドラの告白』がいい橋渡しになっていたなぁということ。
あれあってこその『セイジャの式日』だった。
本編はこれにて終了だけど、出来ればスピンオフとして宛やAやハルの物語も読んでみたい。
柴村さんお疲れさまでした。心に残る名作をありがとうございます、そしてよろしくお願いしますw



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Posted at 2010.05.10 (04:18) by 謎の男の小説感想部屋

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Comments

こんばんは。
私も、もうすぐ「ハイドラ」「セイジャ」読むところです。今から楽しみです!!
Posted at 2010.04.26 (22:57) by naomatrix (URL) | [編集]
ちょうど今日買ってきました。
僕はまずプシュケからスタートしないといけないんですけど、今から楽しみです。
Posted at 2010.04.27 (02:06) by ぐれ (URL) | [編集]
やはりハイドラは無駄ではなかった・・・と心から思いました。
也さんの透明感溢れるイラストが・・・(泣)

何も特別な設定など無いし、圧倒的な描写力があるわけでも無い。
でもその等身大っぷりが、「彼方」にしっかりとした色を残してくれました。
言うべきではないかもしれませんが、ここ数年読んだ中で最高です。
柴村先生、也先生。この感動をありがとうございました!!
Posted at 2010.04.27 (19:56) by ask (URL) | [編集]
Re: タイトルなし
naomatrixさん、コメントありがとうございます。

じっくり味わいながら読んでみてください。
非常に感銘を受ける作品となっていますので。

ぐれさん、コメントありがとうございます。

プシュケから読まれるのでしたら、一気に三作品を読むのもいいかもしれませんね。
私は間が空いてしまいましたが、余韻が消えぬうちに次の作品と読んでいけば、さらに味わい深くなるのではないのでしょうか。

askさん、コメントありがとうございます。

ハイドラがなければセイジャの感動はあり得ませんでしたからね。
登場人物を力強い文章で真っ正面から描くことで、彼らの印象に深みを加えていますよね。
最高なんて言葉、そう軽々しく使えませんが、この作品にはまさにぴったりの言葉だと思います。
Posted at 2010.04.27 (23:17) by つかボン (URL) | [編集]
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Author:つかボン
前ブログ『BOOKDAYs!』の元管理人。
入間人間先生をこよなく愛し、自らも作家を目指す小説家志望だが、その実態は堕落人生まっしぐらのダメ学生。
しかし落ちるところまで落ちればあとは昇るだけ、それは可能性の獣。

同人誌『Spica-スピカ-』のメンバーとして活動もしています。
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